脳疾患メカニズムの研究には、病態をマクロからミクロまで多角的に理解していくことが重要ある。特に、PETはヒトを含む動物の生体内分子動態をマクロレベルで可視化できるが、時空間解像度が低いという問題がある。蛍光顕微鏡などの光イメージングは、ミクロレベルの時空間解像度をもつ。そのため、PETと蛍光顕微鏡との同時測定装置は、相互の測定値を補い合う理想的な補完関係を作れるが、未だ開発には至っていない。本研究では、申請者らが開発したPETと光イメージングと動物実験の3つの要素技術を組み合わせることで、世界初の小動物PETと蛍光顕微鏡の同時測定装置の開発を行った。初年度の開発により、前述のPETと蛍光顕微鏡の同時測定を覚醒状態のマウスより行うことが可能になった。この研究成果は、国際誌に原著論文として報告した(筆頭著者:Phys Med Biol. 2016; 61(17):6430-40)。 次年度は、FDG-PET(グルコース代謝)とフラビン蛍光イメージング(酸素代謝)との同時測定による脳活動のマルチスケールイメージングを目的として、フラビン蛍光イメージングの新規補正法を開発した。この補正法は、脳活動に伴う血流変動による蛍光イメージングへの影響を除去することができる。この研究成果も、国際誌に原著論文として報告した(責任著者:Front Neurosci. 2018; 11:723)。さらに、蛍光特性を持つPETトレーサーを二光子顕微鏡でイメージングすることで、PETトレーサーの分布をマクロとミクロレベルで観察する実験を行った。このPETトレーサーは、認知症の原因物質と考えられているタウの蓄積を検出することができる。認知症モデル動物の脳内タウ蓄積を同一トレーサーでマルチスケールにイメージングすることで、タウ病変と神経細胞死との関係を明らかにした。この成果は、現在論文投稿準備中である。
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