ヒト正常肺組織移植実験を行うため、マウス血中のIgGおよびIgMが検出限度以下のSuper-SCIDマウスを医薬基盤・健康・栄養研究所動物施設SPF環境下にて生産を行った。 ヒト正常肺は、肺がん切除手術の際、IRBの指導のもと治療上切除せざるを得ない肺がん周辺の正常部分の譲渡を受け移植した。手術時に正常肺組織を摘出してすぐ移植を行った組織群において、照射1週間後に摘出したものの遺伝子発現解析では、炭素線(重粒子線)0.5、1Gy、X線1、3Gy照射での比較では、照射2週間後の摘出のような線量依存的な減少や増加が見られなかったので、照射2週間後の摘出を行った。 譲渡を受ける正常肺組織は、年1~2回の照射実験に合致する譲渡が極めて困難であるため、肺組織を特別なプログラムで凍結保存したものを用い、炭素線照射を行った。H.E染色による病理組織の観察では、患者組織を一度凍結保存を行っているためか、空気もほとんどなく肺胞の構造はなくなっているが、細胞はよく維持されている。非照射組織と比べて炭素線1、2Gy、X線1Gy照射では大きな組織像の変化はなく、X線3Gy照射で生存細胞(有核)の減少が少しみられた。 上記組織群の遺伝子発現の変化を観察したところ、炭素線1、2Gyで減少していたプローブ数は77個、39.5個、増加は68個、32.5個であった。X線1、3Gyで減少は、55個、76.5個、増加は21個、15個であった。新鮮な組織での遺伝子解析では線量依存的に増加していたが、今回凍結保存組織を使用したためか、線量依存的な増加は見られなかった。 陽子線照射の観察は、日本で唯一、研究用照射実験可能な若狭湾エネルギーセンターで行ったが、がん組織への照射においても、線量依存的な増殖抑制曲線が得られず、線量が明確でないため、正常肺における遺伝子発現解析等には用いることができなかった。
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