臓器移植後の最後の乗り越えるべき壁として慢性拒絶反応の克服が必要である。慢性拒絶反応は主にグラフトの血管が徐々に閉塞していき機能不全に至る進行性の病態である。アロ免疫応答を抑制することでグラフト血管内腔狭窄を軽減できることは動物実験で証明されてきたが、実際に臨床においては免疫抑制治療下でも慢性拒絶反応は進行する。免疫抑制療法の発達とともに各臓器の短期グラフト生着率は改善しているが、長期グラフト生着率に改善がないことからも拒絶反応の抑制だけでは不十分と考えられる。血管平滑筋細胞はアロ免疫応答のない状況でもinterferon-γの刺激により増殖しグラフト血管狭小化をきたすため、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を標的とした治療が必要であると考えている。 そのため、アロ免疫応答が抑制されている状況下での慢性拒絶反応モデルを確立することに着眼し実験を行なったてきた。本年度はヒト化マウスモデルは断念して、マウス血管移植の再移植モデルを重点的に行ってきた。しかし、当初の思惑から外れ、初回血管移植したグラフトを再移植すると9割近くが血栓症を引き起こした。そのため、端々吻合を行う動脈グラフト再移植モデルでは、当初目的とした免疫応答のないグラフト環境を作り出すことは困難と判断した。 最後に、端々吻合である動脈移植モデルから端側吻合となる心臓移植モデルに変更し、再移植モデルを行った。心臓グラフトを用いた再移植モデルでは再移植後28日に移植後動脈硬化としての病変ははっきりしていなかった。また、心筋そのものに障害が出ており、虚血障害によるそのもののダメージが前面に出てきている像であった。 以上の結果より、免疫応答のない状況にグラフトが移植されているモデルの確立ができなかった。
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