研究課題/領域番号 |
16K19890
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
江坂 和大 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (40772059)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 |
研究実績の概要 |
肝細胞癌(HCC)は本邦において全癌死の10.6%を占める重要な疾患である。この疾患の克服の鍵となるのは、正確な治療方針決定のための鋭敏な腫瘍マーカーと新たな分子標的治療薬の開発である。SAM domain, SH3 domain, and nuclear localization signals 1 (SAMSN1)遺伝子は、主に造血細胞で発現しB細胞の活性化や分化に増殖に関与すると報告されている。申請者らは先行研究において、このSAMSN1遺伝子の発現がHCCにおいて、DNAメチル化を介して高頻度に抑制され、その発現低下が治癒切除術後の強力な予後予測因子であることを発見した。本研究では、SAMSN1遺伝子の機能解析、血清診断への応用を目指した実験を行っている。マイクロアレイデータでは、SAMSN1発現度はHCC癌部組織で正常組織の約4分の1に低下していた。9種のHCC細胞株でのSAMSN1 mRNA発現を調べたところ、HepG2、HuH2、HuH7、PLC/PRF/5で高度なSAMSN1抑制を認めたが、このうちHuH2、HuH7、PLC/PRF/5においては脱メチル化によって発現が顕著に上昇しており、DNAメチル化によって抑制されていることが示唆された。血清診断に応用するためには、発現量の低下を異常として検出することは困難であると考えられる。HCC由来の遺伝子学的異常所見であるSAMSN1のDNAメチル化が、癌特異的なイベントと考え、HCC患者血清からの検出を試みている。さらに、SAMSN1をノックダウンすることでHCC細胞株機能にどのような変化を生じるかについて、siRNAを導入するノックダウン実験系を開始している。ノックダウン前後での、細胞増殖能、浸潤能、遊走能について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
血清から得られるDNA量が少ないため、メチル化assayを行う前に必要となるbisulfite処理の至適条件設定に、想定以上に時間を要している。血清検体の収集は順調に進んでおり、条件設定後は順次DNA抽出、bisulfite処理、メチル化解析へと進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、計画どおりにSAMSN1発現のsiRNAによるノックダウン実験を行って機能解析を進めていく。同時に、血清から抽出した微量DNAのbisulfite処理の至適条件設定を行い、順次検体数を拡大していく。さらに、HCC患者から収集した肝組織検体(癌部および非癌部)を対象に、定量的PCR法によって多検体におけるSAMSN1 mRNA発現度を調べ、拡大した症例群におけるSAMSN1発現度の臨床的意義を検討する。タンパクレベルの組織中発現度については、免疫組織化学染色法によって評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
メチル化解析が条件設定段階で停滞していることにより、発現解析・メチル化解析試薬の経費が計画額に達しなかった。これにより、次年度使用額を生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
条件設定後には多検体での検体処理、メチル化解析に繰り越した経費を使用する計画である。
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