肝細胞癌(HCC)はいまだ予後不良な疾患であり、正確な診断および臨床病期決定のための鋭敏でかつ病態を反映し得る腫瘍マーカーの開発と、個別化治療につながる新規分子標的治療薬の開発が望まれている。本研究ではその候補となりうる分子として過去の研究成果の中からSAMSN1遺伝子に着目し、HCCにおける意義を評価した。HCC細胞株において、SAMSN1高度発現抑制株ではSAMSN1のDNAメチル化を伴っていた。また、SAMSN1発現は脱メチル化処理によって回復した。144例の手術症例から得た肝組織中SAMSN1発現は、非癌部組織に比べてHCCで高度に抑制され、病期進行に伴って有意な減少を認めた。SAMSN1のHCC組織中発現抑制群は予後不良であり、多変量解析でも独立予後不良因子であった。これらは、SAMSN1発現レベルが、HCCの予後マーカーおよび治療後再発マーカーとなりうることを示している。さらに、HCC組織中のSAMSN1発現は、のちの再発形式が重篤となるものほど強く抑制されており、SAMSN1の予後予測マーカーとしての有用性が示された。免疫組織化学染色法によって、蛋白レベルでも、良好にSAMSN1発現変化が評価可能であることが示された。これらの結果から、SAMSN1はHCCの発癌および進展に重要な役割を有している可能性と、有望なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。患者血清からのSAMSN1 DNAメチル化は検出困難であったため、血清診断より肝組織での発現評価およびメチル化解析が重要となるものと考えられた。
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