【目的】肝境界グラフトにおいて、臓器保存時に水素含有臓器保存液を使用することにより、境界グラフトの viability を向上させる可能性につき検討し、臨床応用の可能性を探ることを目的としている。肝切除モデルでは水素水の投与量の設定が困難であった。肝移植モデルにおいて5-7pppmの水素含有臓器保存液の還流による虚血再灌流障害の軽減効果が報告されている。またラット肝癌モデルにおいて肝部分切除時の虚血時間の長さによって腫瘍発生率に差が生じ、虚血再灌流障害が肝癌発生に関与していると報告されている。そこで水素による虚血再灌流障害の軽減効果によって肝癌に対する肝移植後の肝癌再発が抑制出来るのではないかとの仮説にて検証を行った。 【結果】まずラット同所性全肝移植モデルを作成し、全例で長期生存を確認した。続いて同モデルにおいて各脈管の吻合後、経門脈的に肝癌細胞株(N1S1)を注入することによって肝移植後の肝癌再発モデルを作成し、水素含有リンゲル液還流群および水素非含有リンゲル液還流群に分類して術後3週間目に両群間での術後再発率、血清学的評価、組織学的評価を評価することとした。肝移植後の肝癌再発モデル作成のため、肝癌細胞株(N1S1)をそれぞれ1×106細胞(n=3)、2×106細胞(n=3)、6×106細胞(n=3)を経門脈的に注入した。術後3週間後に犠牲死を行い、血液生化学的評価、肉眼観察および病理組織学的評価を行った。いずれの群も肝表面および肝臓内に腫瘍の形成は認めず、病理組織学的検索でも腫瘍形成を認めなかった。また腫瘍マーカー(AFPやPIVKAⅡ)はコントロール群も含め測定範囲未満の数値であり有意な上昇を認めなかった。今後は、肝細胞癌の投与量、投与方法、投与濃度に関して更なる検討が必要と考える。モデル作成後は水素水による虚血再灌流障害の抑制効果が腫瘍再発を軽減するかの検証を行う。
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