研究課題/領域番号 |
16K19899
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 奈真 九州大学, 医学研究院, 助教 (60608967)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳癌 / EMT / collective invasion / BRCA1プロモーターメチル化 / ゲノム不安定性 |
研究実績の概要 |
本研究はTNBCの多様性について、その分子機序を解明し、予後不良・良好の鑑別に役立つ因子を同定し治療に結びつけることを目的とする。 乳癌細胞の浸潤転移に関する研究:EMTマーカー・basalマーカーの発現解析では前治療歴のない浸潤性乳癌切除例のパラフィン切片を用いて、 E-cadherin、vimentin、CK5/6、EGFRの蛋白発現を免疫組織化学染色にて評価を行った所、basal乳癌においてvimentin陽性症例の予後は極めて不良であることが判明した。また、EMTとcollective invasionに関する研究についてはE-cadherin、vimentin の評価を行った症例の中で、リンパ節転移・遠隔転移巣のパラフィン切片を用いて E-cadherin、vimentin の蛋白発現を評価を行った。E-cadherinはリンパ節転移巣で原発巣と同等もしくはより高発現をすることが分かった。vimentinについては原発巣とリンパ節転移巣の間で発現状況は完全に一致していた。E-cadherin発現が低下することが必ずしも浸潤転移をきたす訳ではなく、癌細胞が細胞接着性を維持しながらも転移を起こしている様子は非常に興味深い。今後は共焦点顕微鏡を用いてE-cadherin、vimentinの腫瘍細胞内での局在を検証する。 BRCA1機能不全に関する研究:術前治療歴のない原 発性浸潤性乳癌のうち 69 例の TNBC および 161 例の non-TNBC を対象として、COBRA法にてメチル化解析を行った。BRCA1プロモーターメチル化は11症例に認められ、全例TNBCであった。また、TNBCにおいてBRCA1プロモーターメチル化症例ではBRCA1mRNA、蛋白発現がいずれも著明に低下しており全生存において予後不良であった。以上の結果は国際学会、論文として発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳癌細胞の浸潤転移に関する研究:乳癌臨床検体パラフィン切片を用いた免疫組織化学染色により、各種EMTマーカーの蛋白の発現量を解析、さらに basalマーカーの発現量を免疫組織化学染色にて評価し、basal-like型乳癌とEMTの関連を検証した結果、vimentin高発現症例はbasal-like型乳癌における予後不良因子であることが判明した。vimentinは細胞質に存在し、更には間質の線維芽細胞にも存在することより、創薬のターゲットとしては、下流にある膜型チロシンキナーゼであるAxlが注目される。Axlの発現を評価した結果、Axl高発現症例は非常に予後が不良であることが判明し、論文として発表した。 BRCA1機能不全に関する研究:TNBCにおいてBRCA1プロモーターメチル化症例ではBRCA1mRNA、蛋白発現がいずれも著明に低下しており全生存において予後不良であった。本結果は論文として発表した。ついでBRCA1機能不全との関係、ゲノム不安定性との関係性について検証していく。 以上より本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
乳癌細胞の浸潤転移に関する研究:近年、乳癌の浸潤様式にも多様性があることが分かってきた 。その最たるものがEMTや、collective invasionである。これらの浸潤形態が同時に起こるものか、相互排他的な現象かは未だ不明である。 E-cadherin、vimentinの発現パターンを原発巣・転移巣で詳細に調べることにより、癌の浸潤転移のheterogeneityの真相は何かを探る。 BRCA1機能不全に関する研究:BRCA1プロモーターメチル化症例におけるゲノム不安定性を検証する。BRCA1の遺伝子変異を調査するには遺伝カウンセリングが必要となり、臨床上の制約が大きい。
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