乳房温存術において術前・術中に腫瘍の局在と広がりを確認しながら手術を施行できれば、外科医は深い自信と安心感を持って、必要最低限にして十分な範囲の乳腺切除を行うことができ、患者は乳房の整容性を保ち、かつ根治度の高い手術を受けることが可能となる。我々はレーザー光線により、実際の患者乳房の任意の場所・角度で切ったスライスのMRI画像を、遅延なくリアルタイムでタブレット端末に表示可能な「Virtual Slicer」を開発した。これを用いて次の研究を遂行中である。 我々は既にMRI画像および3Dスキャナーで取得した3次元情報を基に、3Dプリンタを用いて乳腺のファントムを作成した。さらに多くの患者の体表面データを取得し、システムの普遍性の検証を遂行中である。 本研究は広い意味で、いわゆる「ナビゲーションサージャリー」を実現することを目的としているが、乳房の手術へ実用レベルで応用した例は未だかつて無い。上記研究を継続することで、手元で自在に操作可能なタブレット端末により、任意のMRIスライスを患者体表面を確認しながら描出可能なVirtual Slicerを使用することで、手術の精度は飛躍的に上昇し、根治性と整容性を高いレベルで両立することが可能となると考えられる。既に本システムの患者適用に関して慶應義塾大学医学部の倫理申請が通過しているが、これを基にインフォームドコンセントを行った術前乳癌症例を対象に、Virtual Slicerシステムが運用可能か否か、およびシステムの位置精度の検証を行った。本技術は、超音波で確認しがたい腫瘍やその進展範囲を眼下に直接確認することを目的としているが、本研究では位置情報の検証を容易に行うため、MRIおよび超音波の両方のモダリティで明確に確認できる乳癌症例を選定している。
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