研究課題/領域番号 |
16K19905
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
セドキーナ アンナ 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 研究技術員 (80626698)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | BRCA1 / NfkBシグナリング / Bortezomib / 乳癌 / 卵巣癌 |
研究実績の概要 |
BRCA1機能不全は予後不良乳癌であるbasal-like乳癌と関連があり、BRCA1機能不全を伴う乳癌に対する効果的治療方法の確立は重要である。BRCA1変異がNF-kB経路を亢進させることが報告されており、本研究はこの特徴を生かしBRCA1変異だけでなく発現量低下などを含むBRCA1機能不全細胞がNF-kB inhibitorであるbortezomibに高い感受性を示す、すなわち効果的治療方法になりうることを仮説とし検討するものである。BRCA1変異細胞とBRCA1安定発現細胞株でのbortezomibに対するin vitroでの薬剤感受性実験を行い、BRCA1機能不全細胞がbortezomibに高感受性を示すことを証明した。さらにBRCA1発現低下も変異と同様にNF-kB経路のcore complexであるp65発現亢進をおこすことを証明した。またBRCA1発現低下細胞がbortezomibに高い感受性を示すこともin vitroで証明した。最近の報告で、p65高発現によるBRCA1抑制メカニズムが明らかにされた(Sci Rep. 2017 Aug 7;7(1):7481.)。BRCA1の発現が低い乳癌細胞では癌原遺伝子であるMUC1-Cが高発現するとp65発現亢進が促され、ポリコームタンパクであるEZH2が高発現となる。EZH2はヒストンH3のK27をメチル化することによってBRCA1の発現を抑制するというものである。この報告も本研究が明らかにしたBRCA1-NF-kB経路の関連を裏付けるものである。このようにBRCA1変異だけでなく、発現低下もp65発現量亢進をきたすことを証明し、BRCA1機能不全細胞がbortezomibに高い感受性を示すことをin vitroで証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの検討でBRCA1変異だけでなく、発現低下もNF-kB経路のcore complexであるP65の発現量亢進をきたすことを証明し、さらにBRCA1機能不全細胞がbortezomibに対し高い感受性を示すことをin vitroで証明した。今後はBRCA1-NF-kB経路の関連、及びbortezomibに対する感受性in vivo、および臨床検体を用いた実験系で証明する予定である。 in vivoでの実験系確立にむけて様々なtitrationを行っている。BRCA1機能不全細胞株とBRCA1正常細胞株(乳癌ではHCC1937, 卵巣癌ではUWB1.289)をいくつかの免疫不全マウス(SCID-マウス、Nude-マウス、NOD-SCID-マウス等)に皮下接種し腫瘍形成を確認してきた。BRCA1機能不全細胞を伴う乳癌細胞株であるHCC1937は2週間程度でSCID-マウスに腫瘍形成を認めた。卵巣癌のBRCA1機能不全細胞であるUWB1.289は4週間程度でNOD-SCID-マウスに腫瘍形成を認めた。これによりin vivoでのbortezomib、及びその他NF-kB inhibitorへの感受性を検討する条件実験が整った。 臨床検体での実験は手術摘出検体の余剰部分を用い単細胞分離し、in vitroでのbortezomibやNF-kB inhibitorに対する感受性をin vitroで確認するものである。検討に先立ち施設内倫理委員会で研究の承認をえた。本検討では、手術検体におけるBRCA1発現量とp65発現量、及び核内局在を観察し、BRCA1-NF-kB経路の関係を検討する。さらに腫瘍を単細胞分離し、bortezomibやNF-kB inhibitorに対する薬剤感受性をin vitroで確認する。これまでに数症例あつまり検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
BRCA1-NF-kB経路の関連に関するメカニズムが近年の報告で明らかになった(Sci Rep. 2017 Aug 7;7(1):7481. )。この報告で重要な因子(癌原遺伝子であるMUC1-C、NfkBシグナリングの活性化マーカーであるp65タンパク、ポリコームタンパクであるEZH2、ヒストン修飾マーカーであるH3K27me3、BRCA1)とされる分子間相互作用を確認することにより、さらなる効果的治療方法の確立や、耐性機序の解明などに関する手掛かりが得られることが予想される。このためこれらの因子の相互作用もこれまで用いてきた実験系(in vivo, invitro)で検討する。 In vivoではBRCA1機能不全細胞のxenograft作成条件は確立したが、BRCA1変異を伴う卵巣癌細胞株であるUWB1.289が、腫瘍の増加スピードが遅く非常に時間がかかる。このため他の免疫不全マウスを用い、実験効率の良いxenograft形成の条件を再検討する。また、より早い腫瘍形成を促すため、NOD-SCID-マウスで作成したUWB1.289由来の腫瘍を取り出し、同じくNOD-SCID-マウスに移植する、いわゆる二次移植実験も行う予定である。in vovoでの実験系を立ち上げたところで、bortezomib、および他のNF-kB阻害剤の投与量を検討した上で薬剤感受性を検討する。 臨床検体での実験はBRCA1の低発現の検体数が少なく、今はまだ統計学的処理(correlation、多変量解析)ができない段階である。さらに多くの検体でbortezomibに対する薬剤感受性の実験を行い、検体収集に務める。BRCA1低発現検体数が統計学的処理の出来る最低検体数に達し次第、解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はマウスを用いたin vivoの実験系を立ち上げ、免疫不全マウスにBRCA1機能不全細胞がXenograftを形成する条件の設定まで完了した。BRCA1機能不全細胞は増殖が遅いため、Xenograft形成にも時間を要し条件設定のみで本年度の検討が終了した。このためその後に行う予定であったXenograftに対するbortezomib、及び他のNF-kB inhibitorに対する感受性実験を次年度に繰越す事になった。 次年度の予定としては、in vivo、臨床検体での実験と検討が終了次第、論文発表の準備に取り掛かる。このため、マウスの実験の使用額と論文執筆関連の使用額に前年度の繰越を使用する。
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