研究実績の概要 |
心停止ドナーを始めとするマージナルドナーに頼らざるを得ない現状において、移植臓器の品質向上に寄与する虚血再灌流障害を軽減する臓器保存液が望まれている。我々は従来のUniversity of Wisconsin solution(UW 液)、Histidine Tryptophan Ketoglutarate solution(HTK 液)等に代わる日本発の新たな臓器保存液として、心移植モデルで実証したSS-Ⅱを用い、ラット肝移植モデルでの有効性を検証した。 本年度は、まず、ラット同所性肝移植モデルを樹立した上、6時間冷保存(HTK液 vs SS-Ⅱ)、再灌流後3時間採血において肝逸脱酵素の平均値を比較したところ、AST (395 vs 396), ALT (297 vs 368), LDH (1118 vs 867)となり、いずれも有意差は認めなかった。一方、12時間保存においては、再灌流後3時間後、 (UW液 vs SS-Ⅱ)、AST (952 vs 2370), ALT (1232 vs 3520), LDH (7400 vs 22480)となり、SS-Ⅱ群で有意に肝障害を認められた。また、SS-Ⅱ保存液で行った症例において、胆汁産生不良、ドナー経大動脈灌流時の肝表面、またレシピエント再灌流時の肝表面の所見は灌流不良・障害と考える肉眼的所見を認め、採血データに一致する所見と考察する。 以上より、肝移植モデルにおけるSS-Ⅱ保存液を用いた12時間保存の有効性は得られなかった。これは、 心臓保存を目的として開発されたSS-Ⅱ保存液中に、コロイドの成分が存在しないによる膠質浸透圧低値であることが原因と推察された。来年度引き続き、肝臓保存に適した成分の調整を検討して、その効果を検証したい。
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