移植肝の線維化は、喫緊の対策が必要な肝移植後合併症の一つである。その対策を講じるうえで、肝線維化過程において中心的役割を担う肝星細胞を標的にすることが合理的であると考えた。移植肝の線維化予防および治療戦略を確立するために、本研究では免疫抑制剤の肝星細胞に対する影響を解明することを目的とし、以下の知見を得た。 免疫抑制剤としてFK506、Cyclosporin A、Mycophenolic Acid (MPA)を培地に加え、培養後の細胞形態を評価したところ、高濃度MPA添加群においては星状の細胞体を認めず、全て類円形の形態を示した(核の形態に変化は認めなかった)。低濃度MPA群を含むその他の群では、全ての細胞が星状の形態を示し、活性化状態を示唆した。高濃度MPA添加に伴う変化は添加後1時間で認められ、また他の肝星細胞株を用いた検証でも同様の結果であった。これらの結果から、高濃度MPAは静止型肝星細胞の活性化を抑制する可能性が示唆された。 更に、活性化型肝星細胞に特徴的な形質であるコラーゲン合成促進と収縮力増強についてWB法で評価した。FK506添加、MPA添加両群で、免疫抑制剤の用量依存的に1型コラーゲンの発現量が減少する傾向が認められた。一方で、α平滑筋アクチンの検討では同様の傾向は観察されなかった。これらの結果は、免疫抑制剤が肝星細胞のコラーゲン合成を抑制しうることを示唆するものであった。同時に、活性化型星細胞の機能を一様に抑制するものではなく、特定の機能を選択的に抑制する可能性を示唆した。
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