本研究ではKRAS遺伝子変異による大腸癌のアミノ酸代謝変化(とくにグルタミン代謝)に着目し、新規治療法の可能性について明らかにすることを目的とする。 大腸癌細胞株についてはKRAS遺伝子変異をshRNA法にてKRAS遺伝子を安定的に発現抑制した複数のヒト大腸癌細胞株を樹立した。これらの細胞株における代謝物をメタボロミクス解析にて包括的スクリーニングの結果からKRAS変異に伴い変化するものとしてアミノ酸代謝(なかでもグルタミン代謝)が重要であり、とくにASNS(アスパラギン合成酵素)が重要であることを我々はすでに明らかにしてきた(Toda K et al. Neoplasia.18:654-665.2016)。 さらにアミノ酸トランスポーターの網羅的なスクリーニングを行ったところ、KRAS変異によりグルタミンのトランスポーターであるASCT2(SLC1A5)が増加することが明らかとなった。さらにKRAS変異大腸癌細胞株にASCT2(SLC1A5)をノックダウンさせると、腫瘍増殖が抑制されアポトーシスが誘導されることがわかった。さらにヒト臨床検体をもちいた免疫染色の解析から、KRAS変異とASCT2(SLC1A5)発現の間には有意な相関関係があり、腫瘍の深達度や脈管侵襲に関与することが明らかとなった。以上の結果はASCT2(SLC1A5)がKRAS変異大腸癌に対する新規治療ターゲットになりえることを示しており、論文として発表した(Toda K et al. Int J Mol Sci.2017;18(8).pii:E1632)。以上の解析結果を踏まえ、臨床検体から樹立したスフェロイド細胞にたいしてASNSおよびASCT2(SLC1A5)の発現を抑制した細胞を樹立して解析を進めている。
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