研究課題/領域番号 |
16K19931
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
黒田 慎太郎 広島大学, 病院(医), 助教 (30457246)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝不全 / 血液凝固異常 / 脂肪肝 / トロンビン / トロンボモジュリン / HBGB1 / 肝癌 |
研究実績の概要 |
肝癌肝切除後には血液凝固異常が生じることが知られているが、われわれは術後肝不全がこの血液凝固異常による肝内微小循環の低下と密接に関わっていることを示してきた。また、脂肪肝などの傷害肝において虚血再灌流後に肝不全が高率におき、癌の生着が促進することも示してきた。また最近では、血液凝固活性のうち、特にトロンビンによる刺激が癌の促進(転移)にも関与していると報告されており、われわれは、抗トロンビン作用を示すトロンボモジュリンの関与と臨床応用の可能性を探っている。これまで、4種の脂肪肝モデルマウスを作成し、各々、肝の類洞内皮細胞上のトロンボモジュリンの発現を免疫染色ならびにウエスタンブロッティングにおいて検討した。脂肪肝群では正常肝群に比べトロンボモジュリンの発現が低下していることが明らかになった。また、脂肪肝モデルマウスでは肝でのピモニダゾールの蓄積、HIF1αの発現の亢進を認め、低酸素状態であることが確認できた。脂肪肝モデルマウスを使用して肝虚血再灌流障害を与え、さらにトロンボモジュリン製剤の使用の有無で肝障害の程度を比較した。血液生化学検査では、トロンボモジュリンにより有意に肝障害の改善を認めた。また、ELISA法による血清HBGB1の測定では、術後1、3、6時間で有意に上昇し、トロンボモジュリンの投与により低下した。また、癌細胞の生着試験では、脂肪肝モデルマウスに虚血再灌流障害を与えた場合、正常肝に比較し癌の生着が促進され、トロンボモジュリン投与により生着が抑制される結果となった。 現在、このメカニズムにおけるトロンビンの関与と、周術期トロンボモジュリン製剤投与による癌の生着の予防が得られるかどうかを検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年はモデルの作成に時間を要したが、本年は、in vivo試験のデータは十分蓄積しつつあり、in vitro試験の結果も加えて、最終年度までには予定の研究を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪肝マウスモデルの作成は安定化し、虚血再灌流障害モデルも確立しつつある。脂肪肝における癌生着実験においては、マウスモデルについてさらなる条件の検討を行っており、これを進める。今後はトロンボモジュリン製剤による肝障害の軽減と、癌の生着抑制の機序について、in vitro試験のデータも積み重ねていく予定である。特に、肝星細胞、類洞内皮細胞との共培養下で、肝細胞癌株の増殖能と運動能を、トロンボモジュリン製剤投与により制御できるかを検討する予定である。また、上記について、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、主にマウスを用いた試験に重点を置き、高額の抗体などを使用するin vitro試験を平成30年度に多く行う予定としたため、結果的に使用額が少なくなった。一方で、平成30年度は高額の試薬をより多く使用すると思われる。精力的に試験をこなし、早期の結果の提出を目標とする。
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