研究課題
最近の膵癌研究の知見で、癌細胞だけでなく周囲の微小環境や癌間質相互作用の重要性が注目されている。胃癌や乳癌において、癌細胞の増殖を支持するニッチが骨髄由来間葉系幹細胞であるとの報告があることから、膵癌においても癌細胞を支持するニッチの形成や、膵癌細胞の進展にも骨髄細胞が関与していると考えられるが、その機序については未だ不明である。本研究では、膵癌細胞の進展と骨髄細胞の役割に焦点をあて、膵癌細胞の増殖、浸潤、転移への骨髄由来細胞の関与とそのメカニズムを解明し、最終的には関連分子を標的とした新規治療法を開発する。そこで、ヒトの前癌病変であるPanINやPDACに類似した腫瘍性病変の再現が可能である、膵癌自然発症モデルマウスのKPC/KPCLマウスを用い、放射線照射による前処置を行った後、GFPで標識された骨髄細胞を移植した。急激な体重減少や腫瘤増大が見られた際に、解剖解析を行った。末梢血、骨髄、膵臓、肝臓、血性腹水、腹膜播種などをFCM解析した。いずれの組織にもドナー由来のGFP陽性骨髄細胞が生着していた。また、詳細なFCM解析により、生着した骨髄由来のGFP陽性細胞は、CD44陽性細胞、CD3陽性T細胞、NK細胞、マクロファージであることが分かった。主に末梢血や骨髄、腹水で癌幹細胞マーカーであるCD44陽性細胞が確認できた。これは血行性に膵癌が転移していることを示唆していると考える。各組織における免疫組織染色を実施したところ、FCM解析結果と同様に骨髄由来GFP陽性細胞が確認できた。腫瘍細胞やADMを起こしている領域にGFP陽性細胞が存在していることが確認でき、その分布には偏りがあった。癌細胞のニッチ形成や浸潤に関与している骨髄細胞の分画を同定するため、いくつかの分画を分けて共培養実験を進めている。
2: おおむね順調に進展している
効率よく骨髄移植モデルを作製する為に、KPCマウス由来の骨髄細胞にGFPをレンチウィルスにて導入したドナー細胞を用いる手法から、GFPマウスの骨髄細胞をドナー細胞として移植する方法へ変更した。レシピエントマウス由来の末梢血、骨髄、膵臓、肝臓、血性腹水、腹膜播種をFCM解析した結果、いずれの組織にもドナー由来のGFP陽性骨髄細胞が生着していた。生着した骨髄由来のGFP陽性細胞は、CD44陽性細胞、CD3陽性T細胞、NK細胞、マクロファージであることが分かった。また、免疫組織染色により腫瘍細胞やADMを起こしている領域にGFP陽性細胞が存在していることが確認でき、その分布には偏りが見られた。癌細胞のニッチ形成や浸潤に骨髄細胞が関与している可能性を見出した。本研究の進捗としてはおおむね順調に進展しているといえる。
骨髄移植後の膵癌組織を用いてGFPおよび膵星細胞のマーカーであるα-SMAでの蛍光免疫二重染色を行い、骨髄由来GFP陽性細胞が膵癌細胞を先導するleading cell様の細胞に形態変化しているかどうかの検討を行う。また、いくつかの分画を分けた骨髄細胞と癌細胞を共培養することにより、骨髄細胞のどの分画の細胞が癌細胞のニッチ形成や浸潤に関与しているかを解明する。
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。
抗体、培養用試薬類、マウス飼育、培養器具等
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Gastroenterology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1053/j.gastro.2017.01.010.
Oncotarget
巻: 8 ページ: 18280-18295
10.18632/oncotarget.15430.