研究課題
本研究の目的は、PPARG agonistと糖代謝関連遺伝子の阻害剤を用いた新規治療法の開発である。H27年度、PPARGと癌の糖代謝において主要なトランスポーターであるGLUT1の発現抑制による腫瘍増殖能の変化とその機能解析に関する研究を行った。食道扁平上皮癌細胞株のGLUT1の発現を、Real time PCR、Western blotにて確認した。食道癌細胞株(TE-8, TE-10, TE-11, TE-14)に対してsiRNAを用いてGLUT1の発現を抑制したところ、20-70%の増殖抑制効果が認められた。GLUT1高発現株であるTE-11を用いて、GLUT1の発現を抑制し増殖抑制効果のメカニズムを解析した。細胞周期をFACSにて測定したところ、細胞周期に変化は認めなかった。GLUT1の発現を抑制した後に、Warburg effect関連遺伝子およびPPARGのmRNAの発現を確認したところ、GLUT3、HK2の発現は変化しなかったが、PKM2、LDHAの有意な発現低下を認め、酸化的リン酸化を抑制するPDK1の発現は低下傾向であった。さらにPPPAGの有意な発現上昇を認めた。本研究において、GLUT1の発現を抑制することにより、Warburg effect関連遺伝子の発現が低下し、解糖系亢進状態が抑制され、乳酸産生を促すLDHAの発現が低下することが明らかとなった。また、GLUT1の発現を抑制することによりPPARGの発現が上昇することが明らかとなった。TE-11はPPARG低発現株であるが、PPARGの発現上昇によりPPARG agonistの感受性上昇が示唆された。さらに、食道扁平上皮癌において、GLUT1の発現抑制による増殖抑制効果ばかりでなく抗癌剤(シスプラチン)との併用効果を認めた。
2: おおむね順調に進展している
実験の目的であった、PPARGと糖代謝経路の関係、抗癌剤感受性に関して、GLUT1の発現を抑制することにより新たに上記の研究結果が得られた。おおむね仮説に準じた結果であり、研究は概ね順調に経過していると考える。
27年度の研究において、GLUT1の発現抑制により主要な代謝関連遺伝子が変化すること、PPARGの発現が上昇することが確認された。さらに次の仮説が考えられ研究を進めていく予定である。GLUT1の発現抑制により、Glycolysisが抑制され、LDHA発現が低下することから、Lactate産制が抑制される可能性がある。Lactate産制抑制は抗癌剤感受性改善に寄与すると報告されている。さらに、PDK1の発現も低下傾向にあるため、GLUT1の発現を抑制することで酸化的リン酸化が亢進する可能性が考えられる。その結果ROSが亢進し抗癌剤感受性が改善する可能性が考えられる。FLAX analyzerを用いて、解糖系から酸化的リン酸化へのシフトを確認するとともに、Lactate、ROSの測定を行う。抗癌剤、あるいはPPARG agonistとの併用において、感受性が向上することを確認する。また、siRNAのみではなくGLUT1 inhibitorであるBAY-876を用いて、増殖抑制効果、PPARG発現の上昇を確認する。Gas chromatography-mass spectrometry により、PPARG agonist、およびBAY-876投与後の代謝経路の変化を解析する。これらの結果に基づいて、PPARG agonist、BAY-876、シスプラチンの併用効果、作用機序を解析する。食道扁平上皮癌に対するGLUT1, PPARGの免疫染色を施行した結果を加えて論文化し報告する。
医局内保管の消耗品を使用できたため。
H29年度はH28年度の結果に基づき、PPARG agonist、BAY-876、シスプラチンの併用効果、作用機序を解析する。研究費はその際の試薬及び器機などの消耗品購入費に充てる他、研究成果発表、情報収集にかかる旅費に充てたいと考える。
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