研究課題
Jumonji-domain containing 3 (JMJD3) はEnhancer of Zeste Homolog 2(EZH2)が特異的にメチル化するヒストン3リジン27(H3K27)の脱メチル化酵素であり、p16INK4aを再活性化させることでがん細胞の増殖を抑制することが報告されている。近年ではglioblastoma細胞において、JMJD3強制発現による細胞増殖抑制が報告される一方で、腎細胞癌では上皮間葉転換を引き起こすとの報告があり、癌における役割はいまだ不明である。ポリコーム複合体を構成するポリコーム蛋白の一つであるEZH2は、癌抑制遺伝子や細胞周期関連遺伝子の発現を抑制することにより、癌の発育・進展に関与することが報告されている。我々は、胆管癌や膵癌においてEZH2高発現が予後不良因子である事を報告しており、大腸癌においてもスタチンがEZH2を介して細胞増殖を抑制することを報告してきた。一方、JMJD3が大腸癌患者において正常部で高発現であり、その大腸癌局所での低発現は予後不良因子であること、および癌抑制遺伝子p15INK4bを制御し大腸癌進展を抑制するメカニズムを初めて明らかにした。また、近年では各癌腫においてマイクロRNAによるエピジェネティックな遺伝子発現制御機構の関与が明らかにされつつあり、我々も同手法を用いてJMJD3の上流に存在し、JMJD3を抑制しうるマイクロRNAを検出した。本研究では、大腸癌におけるJMJD3の更なる標的遺伝子、およびJMJD3の発現を制御するマイクロRNAの同定、およびその関連を検証することを目的とした。
3: やや遅れている
一昨年度にマイクロRNAアレイの結果から2種類のmiRを検出し、in vitroにてJMJD3を抑制するmiRとしてmiR186-5pを同定した。大腸癌細胞株においてmiR186-5pを強制発現させたところ、JMJD3の発現およびCDH1、VASH1、TFAP2Eといった大腸癌における重要な遺伝子の発現抑制を確認できたため、昨年度はin vitroにて細胞周期、上皮間葉転換および化学療法耐性の現象変化に関してmiR186-5pが及ぼす影響を検討した。大腸癌各細胞株においてmiR186-5p、JMJD3、p15INK4b、CDH1、VASH1、TFAP2Eの発現量を確認し、最適な細胞株を選択した。過剰発現を行い、controlと比較することで現象の変化 (MTT assayにて増殖能、PI染色・AnnexinⅤ染色・FACS解析にて細胞周期、等)に及ぼす影響を確認した。また、public databaseを用いてmiR186-5pとJMJD3の発現量の関連を確認したところ、逆相関することを確認できた。そのため、さらに当科保有の臨床サンプルを用いてmiR186-5pの発現量と予後との関連を検索している。以上より研究は比較的順調に進行しているが、in vitroのデータと臨床サンプルを用いた結果の理論的整合性をみるのに時間を要しているため、やや進行は遅れている。
今後の研究においては、同研究を理論的に説明するにあたり不足している実験及び考察を行っていく。以下はそれに必要と考えられる追加実験である。1.大腸癌進展におけるmiR186-5pおよび CDH1、VASH1、TFAP2Eの機能解析miR186-5p過剰発現ベクターをトランフェクションし、control と比較することでその機能解析を行う(具体的には上記の実験を施行している)。また、マイクロRNA InhibitorによるmiR186-5pの抑制を行うことで、その逆の変化の誘導が可能かどうかを検証する。2.ヒト臨床検体におけるmiR186-5p及びターゲット遺伝子の発現意義の確認熊本大学医学部付属病院での2005年~2015年における大腸癌原発切除症例及び化学療法施行症例の臨床サンプルを用いる。凍結切片から、total RNAを抽出し、miR186-5pの発現を確認する。また、miR186-5p発現と、予後、化学療法の奏功度及び臨床病理学的因子との関係を比較検討し、miR186-5pが持つ臨床的意義を検討する。更に、同様の検体を用いてp15INK4b/CDH1/VASH1/ TFAP2EのmRNA及びタンパクレベルでの発現測定を行い、miR186-5pやJMJD3(論文発表済みのデータを含めて)の発現量との比較を行い、臨床検体における相関性を確認する。これによりin vitroでの実験結果をヒトにおいて確認することが出来る。
研究費は主に試薬等の消耗品購入費に充てる。また、最新の研究情報を得るため、及び研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
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