研究課題/領域番号 |
16K19951
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
八重樫 瑞典 岩手医科大学, 医学部, 助教 (80767484)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | circulating tumor tDNA / バイオマーカー / 次世代シークエンサー / digital PCR / heterogeneity |
研究実績の概要 |
大腸癌術後の再発や残存する微少転移の早期発見は予後改善に重要であるが、既存の画像検査や腫瘍マーカーでは限界がある。担癌患者の血中に循環している腫瘍特異的なDNA(ctDNA)が存在し新たなバイオマーカーになる可能性が示唆されている。本研究では、このctDNAを術前より検出し体内の腫瘍量の変化を経時的に観察する。しかし血中の変異遺伝子は多数であり、また変異アレル頻度は0.1~1%以下のため次世代シークエンサー(NGS)を用いてのctDNAの定性・定量は困難である。当教室の先行研究で「①原発巣腫瘍におけるNGSを用いた遺伝子変異スクリーニング → ②血中遊離DNAにおける当該遺伝子変異のdigital PCRによる定量・モニタリング」のシステムを使用することで原発巣変異DNAを確認し、その後の定量化を可能にした。本システムで再発病巣の早期診断が多数症例で証明されれば、既存の検査よりも早期に採血のみで高精度の診断できるようになり、進行再発大腸癌における予後の改善に寄与する可能性がある。血中の変異遺伝子モニタリングにより体内の微小病巣の存在量や変動を確認できれば、術後補助療法の適応や化学療法レジメ、治療期間などの新たな指標となる可能性がある。 また腫瘍の複数部位での遺伝子解析から腫瘍にはheterogeneityの存在が明らかとされている。腫瘍が増大する過程で新たな遺伝子異常が蓄積されていくため、同一腫瘍内で不均一性が生じ癌の診断や治療の大きな障壁となっていると考えられている。本研究でも現在腫瘍検体より3ヶ所サンプルを採取している。腫瘍heterogeneityの把握は個々のバイオマーカーを把握でもあり、再発転移のみならず担癌患者の経過を観察する上で非常に重要である。現在血中の各遺伝子の定量解析を行い、今後は腫瘍heterogeneityの遺伝子変異解析に与える影響を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手術可能な進行大腸癌の被験者に対して入念なインフォームドコンセントの元、現在症例は51例集積しており、手術によって摘出された原発腫瘍と術前後の血液サンプルから血漿と単核細胞を分離し-80℃の環境下で凍結保存している。また、術後経過においては、定期的な外来診察時の検査に合わせて血液サンプルを採取、化学療法や再発後の手術等においては治療の変化のポイントに合わせて血液サンプルを採取し同様に血漿と単核細胞を分離した後-80℃の環境下で凍結保存している。血漿サンプルの採取にはこれまで使用していたBD社バキュティナ採血管は採血後2時間以内に遠心分離が必要であり時間的制約が大きかったが、保存中の有核細胞の崩壊による血漿DNAの増加を防ぐことが可能なBCT cell free DNA採血管 (Streck社)を採用することで、採血後1週間程度までの保存が可能となり格段の効率化が図られた。 ctDNA研究の報告はここ1年でも増加しており、既報告と差別化をはかるため、本研究では腫瘍heterogeneityも考慮し原発腫瘍の三ヶ所よりサンプルを採取しそれぞれの変異解析を施行中である。次世代シークエンサーによる変異解析は約150遺伝子を標的としたtarget sequence panelを用いて解析中である。原発巣で検出された変異について、経時的な血漿サンプルでdigital PCRによりctDNA量の推移を解析するが、mutantとwild type alleleに対応するPrimer/probeの設計法やdigital PCR法についてのノウハウはすでに取得した。
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今後の研究の推進方策 |
原発腫瘍の三ヶ所よりサンプルを採取しそれぞれの遺伝子変異を解析中であるが、同時に同部位のタンパク発現を逆相タンパクアレイを用いて半網羅的に解析する。これにより、機能的な原発巣変異の確認とその血漿中ctDNAでの判定について検討する予定である。対象症例の組織採取部位のcellularityが変異解析・タンパクアレイに十分であるかは、日米の病理医の判定のもと確認をおこなった。 各症例における腫瘍特異的な遺伝子変異を同定後、それぞれの変異遺伝子に対するdPCRによるctDNA解析を行う。KRAS、 BRAF、 EGFRなどをはじめとする特定の変異パターンをもつ遺伝子やがん遺伝子変異データベース (COSMIC)に登録されている遺伝子変異にはバリデーション済のセットが市販されているものも多いが、その他のレア変異についてはPrimer/Probeをデザインし解析する。第一の目標として、ctDNAの経時的変化の解析からctDNAが腫瘍マーカーに代わる再発転移、残存する微少な体内腫瘍量を評価できる新たなバイオマーカーとして使用できるかを検討する。 現在症例は51例集積しているが、術後の病理結果におけるStageⅢは17例であった。StageⅢの再発率は3割程度であるため、再発転移をより観察するためにもう少し症例の増加を必要とする可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度、進行大腸癌の再発・転移を観察するために予定より多くの症例を集積している。そのため、消耗品である採血管やDNA抽出キットをより多く購入している。また、抽出したDNAを次世代シークエンサーにて解析するための試薬を購入した。予定していた情報収集のための各学会参加に関しては、本研究に関する発表演題が少なかったため予定より参加する学会を減らしたため差額が生じた。次年度はdigital PCRに用いるProbeのデザインにかかる費用が大きくなるため残額は次年度使用予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
現在10症例の各サンプルより抽出したDNAを次世代シークエンサーで解析中である。今後は解析された変異遺伝子をdPCRで解析するためのprobeの作成が必要になる。次年度はdigital PCRに用いるProbeのデザインにかかる費用が大きくなることが予想される。
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