研究実績の概要 |
胃神経内分泌細胞癌(Neuroendocrine carcinoma; NEC)はその希少性のため、悪性度が高いにも関わらず未だ有効な治療・診断法が存在しない。そこで胃NECの新たなマーカーを探索する目的で、網羅的遺伝子変異並びに発現解析を行った。 計104例の胃癌切除検体のIon Protonを用いた全エクソン解析、Microarrayを用いた全遺伝子発現解析を行った。104例のうち腺癌の混在のないNECのみを検体として採取できている6例と腺癌13例の合計19例を対象として、NECと腺癌の遺伝子変異、発現を比較した。 遺伝子変異解析の結果、NECは腺癌に比べて有意に遺伝子変異数が多かった(98.0 ± 32.7 vs 62.6 ± 75.7, p=0.023)。また両群とも最も多い変異遺伝子はTP53であったが、NECの方が腺癌よりも有意に変異率が高かった(100% vs 46%, p=0.044)。TP53以外に、NECに共通してみられる遺伝子変異は認められなかったが、NECのみで変異を認めた遺伝子には、神経に関連する遺伝子が多かった。 遺伝子発現解析結果を用いてOPLS-DA法で判別モデルを作成した結果、NECと腺癌を明確に分離することが可能であった。NECに特徴的に発現している35遺伝子を同定し、これらの遺伝子の多くは神経に関係する遺伝子であった。このうちCPLX-2 (Complexin-2)は免疫組織学的染色で、NECの腫瘍細胞に特異的な蛋白が発現していることが確認された。 さらに過去の胃癌切除標本のうちNECと診断もしくは強く疑われる55症例を抽出し、神経内分泌マーカーとCPLX-2の染色をしたところ、43例(78%)がCPLS-2陽性であり、染色陽性率は他の神経内分泌マーカーよりも高く、CPLX-2はNECの診断マーカーとなりうることが示唆された。
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