静脈弁は静脈灌流に重要な構造物である一方、様々な病変の起点となっている。弁部の生物学的特性の解明のため、その細胞機能と遺伝子発現を評価した。 冠動脈もしくは下肢動脈バイパス時に使用されたヒト大伏在静脈の残余片を実験に用いた。弁部及び非弁部の遊走能、増殖能、細胞死をex-vivo、in-vitroで評価した。さらに培養組織を用いて遺伝子スクリーニングを行った。 Ex-vivoで弁部は非弁部に比べて有意に遊走能、増殖能が高かった。両部位から遊走した細胞は蛍光免疫染色の結果、血管平滑筋細胞(SMC)であった。In-vitroではPDGF-BB刺激下で弁部SMCの遊走能、増殖能は非弁部SMCに比較して有意に高値であった。これらの弁部SMCの機能亢進はFGF2抗体によって抑制され、外因性FGF2刺激下では弁部SMCのみ特異的にその遊走能が亢進したことから、弁部SMCにおける機能亢進にはFGF2の特異的関与が推察された。これらin-vitroの結果を基にFGF2抗体を用いて両部位の組織遊走能阻害を試みたが、双方で無効であった。弁部組織の機能亢進解明のため培養組織を用いてRNAシークエンスにて遺伝子スクリーニングを行ったところ、37遺伝子が弁部組織に特異的に発現しており、その一遺伝子であるSEMA3AのNeuropilin1受容体のa1-a2ドメインを介した遊走能抑制作用は弁部組織のみに認められた。 弁部SMCは非弁部SMCに比較してその遊走能、増殖能が亢進しており、弁部病変の一因となっている可能性がある。In-vitroで得られたFGF2は、ex-vivoにおいては無効であり、第3の因子の関与が推察された。SEMA3Aは、弁部SMCにおいてのみ細胞障害因子に対する遊走抑制作用を示した。このように弁部には上記機能に関与する細胞の存在が予想され、これら細胞の割り出しと機能解明が期待される。
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