研究開始当初は本邦における大動脈弁狭窄症に対する治療は大動脈弁置換術(AVR)がほとんどであり、それに用いられる人工弁(生体弁)の血流解析を冠動脈血流から明らかにすることには大きな意義があると考えられた。当初CTで作成したCFD(Compuational Fluid Dynamics)モデルとエコーでのVFM(Vector Flow Mapping)を用いて解析を考えていたが、術後に侵襲的な経食道エコーと、心拍同期造影CTを要することから患者に侵襲的であった。そのため計画段階で候補に挙げていた別のモダリィティーとして、血流を動的に評価できる4D flow MRIを用いた冠動脈血流の評価に切り替えた。実際にウシ心膜弁とブタ大動脈弁の2種の人工弁置換術後患者のMRI撮影を行い、左冠動脈入口部での血流変化を経時的に検出した。血流波形を比較検討するための理論式を構築し、対象症例を増やしていく段階に進んだ。しかしこの時期、大動脈弁狭窄症に対する新たな治療として経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が急速に普及したため、背景を同じくした2種の人工弁置換術症例を検討することが困難となった。また、議論される主眼も人工弁の種類からAVRまたはTAVIに移ったため、生体弁種の将来についての指針を示したい本研究の意義が失われることとなった。そのため、これまでに得られた知見からTAVI弁の血流解析を検討することが学術的に意義のあることと考えた。TAVIでは手技を行うにあたり術前に心拍同期造影CTを必要とする。また、当院では術後にも弁尖血栓の有無の確認のために同条件でのCTを可能な限り撮影していた。これを利用し、術前後のCTから時相の異なるCFDモデルを作製することができた。今後、このモデルをもとに血流解析を行うことでTAVI弁とAVR弁との冠動脈血流の優劣が検討できると考えている。
|