研究課題
本研究の目的は移植前後のグラフトの肺障害を非侵襲的かつ即時的に評価する方法を開発することである。申請者らは「非潅流領域は温かい潅流液が潅流されず正常潅流領域と比較し温度が低い」と仮説を立て、ラット体外肺換気潅流モデルにおいて非潅流部位を同定できることをすでに証明していた。この結果に基づき、大動物を用いた体外肺潅流装置において局所障害部位の同定を試みた。ビーグル犬を正常群、潅流障害群、肺水腫群の3群に分け、潅流障害群では左下肺動脈を結紮し潅流障害領域を作成、肺水腫群では左下葉に生食を注入することにより肺水腫領域を作成した。サーモグラフィーを用いて体外肺換気灌流中に肺表面温度を観察すると潅流障害部位は温度が低く、正常部位と明確に区別することが可能であった。また肺動脈カニューレを遮断すると正常肺は温かい潅流液が末梢まで到達せず急速に冷却されるが、肺水腫が存在する場合は末梢気管支に空気が到達できないことと、空気に比べ比熱が高いことにより肺表面温度の低下が遅いことが判明し、このことにより肺水腫領域を区別することが可能であった。この成果は2017年4月の国際心肺移植学会のmini oral sessionで発表した。大動物モデルにおいて障害部位を検出できることが判明し、実験4として申請していたHumanの肺移植後の再灌流時、人工心肺離脱時の肺表面温度の測定と術後の予後との比較を54例、89グラフトを対象に解析した。肺表面温度のヒストグラムは正規分布を示したが、明らかに温度が低く、正規分布から外れたグラフトが3例認められた。その3例の内2例は在院死の転帰をたどり、残りの1例は問題なく退院となったが、術後6か月の肺血流シンチグラフィーでは血流比の左右差が認められた。この成果は2017年9月の日本胸部外科学会にて発表予定である。
3: やや遅れている
実験3として申請したHumanのresearch lung(障害肺)と正常な肺の比較は日本での体外肺換気潅流を行うことは現実的に難しく、実現に至っていない。現在Humanでの体外肺換気潅流を行っているトロント大学およびその他の海外の研究機関との共同研究を模索している。
当院で施行されている肺移植後のグラフトの再灌流後の肺表面温度の測定を引き続き継続し、その予後や肺血流シンチグラフィーとの対比を重ね、障害と肺表面温度との関係をより明らかにする。このことにより直後に生じた物理的なトラブルを早期に発見し手術終了前に改善でき本邦の肺移植の成績を向上し得る可能性がある。また、Humanの体外肺換気潅流を行っている施設と交渉し、共同研究としてサーモグラフィーを用いたマージナルドナー肺の体外肺換気潅流中の評価を行い、これまでの実験の臨床応用を目指す。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件)
J Heart Lung Transplant
巻: 35(6) ページ: 815-22
Ann Thorac Surg
巻: 101(6) ページ: 2161-7
巻: - ページ: -
巻: 102(5) ページ: 1717-1724
J Thorac Cardiovasc Surg
Surg Today