研究課題/領域番号 |
16K19981
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
河合 紀和 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (40458013)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゼラチン糊 / バイオマテリアル / 医療用接着剤 / 気管支断端ろう / air leak / 気管支充填 / 中皮細胞 / 胸膜再生 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目標は、新規医療用接着剤(以下、ゼラチン糊)を用いた気管支断閉鎖についての検討である。 ゼラチン糊はゼラチンのアミノ基とグルタルアルデヒドのアルデヒド基が化学結合してシッフ塩基を形成することでゲル化する。ラットを用いた肺瘻閉鎖における接着強度の実験において、同材料はフィブリン糊と比較してはるかに強い接着強度を示し、良好な結果を得たことを論文報告した(フィブリン糊の約2 倍の耐圧強度)(Sealing Effect of Cross-Linked Gelatin Glue in the Rat Lung Air Leak Model. Kawai N, et al. Ann Thorac Surg. 2016)。 今年度(平成28年度)は、ラットを用いた動物実験において肺ろうモデルを応用した気管支断端ろうモデルを作製し、これに対してゼラチン糊を用いた気管支断端閉鎖法を行い、接着強度および組織学的評価をすることを目標としている。現在、ラット(左肺摘除による)気管支断端ろうモデルを確立し、気管支断端閉鎖および治癒組織の評価実験に移行中である。 一方で、前実験で「肺(ラット)においては胸膜欠損部への塗布により、ゼラチン糊表層への中皮細胞の増生を認め、肺組織の治癒が良好であることを確認した」成績(平成26 年日本呼吸器外科学会総会にて発表)を踏まえて、in vitroでの中皮細胞の再生について評価を行っている。In vitroにおいては、接着剤原液上での細胞増生が不可能であることを確認し、100倍希釈製剤上では細胞増生が可能なことを確認した。現在、中皮細胞の効率的な単離方法と製剤上での細胞増生の評価方法を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度(平成28年度)はラット気管支断端ろうモデルでのゼラチン糊を用いた気管支断端閉鎖法を行い、ゼラチン糊の気管支断端への接着強度および塗布部の組織学的評価をすることを目標としていた。 まず、実験モデルにおいては、「気管支ろうモデル」は「肺ろうモデル」と比較して侵襲が大きいという問題点があった。我々が以前に行ったラット「肺ろうモデル」は、手術手技自体には問題なかったが、麻酔法・呼吸管理がやや難しく、処置中の麻酔維持(循環・呼吸管理)を安定させることに難渋した。今回の「気管支ろうモデル」では、手術侵襲が増大するため、より低侵襲に安定した麻酔・呼吸管理を行う方法を検討した。その結果、イソフルランによる麻酔導入・維持と経口気管挿管(以前は気管切開し気管挿管していた)による実験モデルを獲得した。低侵襲な実験モデルへの変更とその確立に時間を要したため、動物実験の進行がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
やや遅れている動物実験に対しては、in vitroでゼラチン糊と細胞との親和性についての評価実験を進めており、これを動物実験にフィードバックし、研究を推進する予定である。 In vitroにおける、ゼラチン糊を足場とした細胞培養法については、概ね確立できている。また、ソースとして予定している中皮細胞については、その効率的な単離方法について概ね確立できた。今後は、単離・培養増殖した中皮細胞を用いて、in vitroでゼラチン糊と中皮細胞との親和性を評価し、その結果を随時動物実験にフィードバックする予定である。 一方で、動物実験においては、既に安定した(左肺摘除による)気管支断端ろうモデルの確立とモデルマウスの術後長期生存を確認できており、ゼラチン糊を用いた気管支断端閉鎖および治癒組織の評価実験に移行中である。 動物実験では、最終的にはゼラチン糊単独での気管支閉鎖を目標としているが、既存の気管支断端閉鎖方法とも併用しながら、ゼラチン糊を貼付した場合の耐圧測定・組織修復について検討を行い、塗布方法について検討する。また、ラットにおける動物実験の結果を踏まえたうえで、大動物(ビーグル犬)実験へと移行予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ラットを使った動物実験モデルの作製において、今回の実験は当科で以前から行っていた実験モデルの改良を試みたため、そのモデル確立にやや時間を要し、動物実験の進行がやや遅れた。このため、動物実験に要する費用の一部を次年度に持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験は、安定したモデルを確立できたため随時評価実験に移行中で、繰り越した研究費は当初の計画通り、動物実験に使用する見込みである。
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