肺切除術後の残存肺には好中球などの炎症細胞が集積し、IFN-gammaやIL-12、HMGB1などの種々のサイカインが産生され、それらによる肺血管透過性の亢進と肺浮腫が生じる潜在的肺損傷Occult lung injuryの状態にあることを、マウスモデルで確かめてきた。肺切除術後の残存肺に生じる潜在性肺損傷Occult lung injuryは、頻度の高い感染性肺炎などの重篤化と、致死率が最も高いにもかかわらず病態解明の糸口さえつかめていない肺癌術後の間質性肺炎急性増悪の発症機序に関与している可能性がある。これまでのマウスモデルから発展させ、より臨床に即した中型動物で実験を行い、occult lung injuryの検証と病態解明を行った。ビーグル犬に対して全身麻酔下に左肺全摘術を施行し、マイクロサンプリング法を用いて残存右肺の末梢気管支から気道上皮被覆液(Epitherial lining fluid; ELF)を採取した。肺切除後5時間まで経時的に採取し、種々の炎症性サイトカイン濃度を測定した。ELF中のTNF-alpha濃度はbaselineでは検出限界以下であったが、切除後5時間までに残存対側肺で319±402 (mean±SD) pg/mlの濃度上昇を認めた。IL-1betaは6810±1117 pg/mlまでの上昇を認めた。IFN-gammaは810±566 pg/mlまでの上昇を認めた。また、IL-6は切除後2時間で120±66 pg/mlと上昇を認めた。また、組織学的な検索では残存肺に炎症細胞の浸潤を認め、マクロファージにTNF-alphaやIL-6の発現を認めた。これらの残存肺における炎症性サイトカインの産生が、肺切除術後のoccult lung injuryや間質性肺炎の増悪の機序に関与していると考えられた。
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