マウスモデル作成に先立ち、作成が比較的容易なラットくも膜下出血血管穿通モデルの作成を行い、モデル作成の手技を安定化させた。ラットくも膜下出血血管穿通モデルの脳切片を用いた蛍光免疫組織染色では、血管周囲および髄膜などに酸化ストレスマーカーである HO1 の蛋白レベルでの有意な発現上昇が見られ、くも膜下出血後早期脳損傷(Early brain injury : EBI)と酸化ストレスとの関連が示唆された。また、くも膜下出血後のラットから取り出したウィルス動脈輪を用いた qRT-PCR でも、同様に HO-1 の RNA レベルでの有意な発現上昇が見られ、血管においてもくも膜下出血後の病態と酸化ストレスとの関連が示唆された。 その後、マウスを用いたくも膜下出血血管穿通モデル作成を安定化させた。このモデルを用いた実験で、酸化ストレス反応制御転写因子 Nrf2(nuclear factor erythroid-2-related factor 2)のノックアウト(knock out : KO)マウスと野生型との術24時間後の比較として、くも膜下出血後 EBI の主要な病態である脳浮腫を脳水分含量計測によって評価し、また脳血管攣縮の評価として India-Ink angiography を用いた血管の計測を行った。現段階では両群に有意な差は認めていないが、Nrf2 KO 群でより脳浮腫が重篤で、より血管収縮を認める傾向であった。有意な差が出ていない原因としては、Nrf2 KO 群で術24時間以内の死亡率が野生型群に比べて有意に高いことが挙げられ、前者が酸化ストレスに起因した EBI によって、より状態が悪化している可能性が推測された。これらの所見はくも膜下出血後 EBI に酸化ストレスおよび Nrf2 が関与していることを示唆する所見であると考えられた。
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