(背景)Cortical spreading depolarization(以下CSD)は脳灰白質において神経およびグリア細胞の脱分極が自己伝搬し拡散する現象である。近年くも膜下出血急性期においてこの現象が観察され、早期脳損傷への関与が注目されている。CSDが発生すると再分極までの過程においてエネルギー需要が上昇し脳循環代謝も大きく変動する。CSD後脳循環代謝は脳灌流圧に依存するとされる。くも膜下出血患者では急激な脳圧上昇が見られるため、脳圧上昇による脳灌流圧低下がCSDの発生や脳循環代謝にどのように影響するのかを明らかにすることは早期脳損傷の病態解明に重要である。我々はラットを用い脳圧とCSDの関連および脳循環代謝変化を検討した。 (方法)雄性SDラット8―10週齢を使用し麻酔下に動脈圧、脳圧を計測した。KCl溶液によりCSDを誘発させた。脳圧を50mmHgに上昇させた群と正常圧対照群にわけCSD誘発後細胞外電位、脳血流、脳組織グルコース・ラクテート濃度、酸素分圧の変化を計測した。 (結果)脳圧50mmHg群ではCSD発生後通常認める一過性脳血流上昇を認めず、むしろ低下を示しエネルギー需要に見合った脳血流の上昇(neurovascular coupling)が障害されていることが示唆された。それに伴い脱分極から再分極までの時間が延長した。脳圧上昇そのものは代謝にも影響を与え、安静時脳組織グルコース濃度、ラクテート濃度、酸素分圧がそれぞれ低下した。また脳圧上昇はCSD発生時の反応性変化にも影響を与え生理的条件下でのパターンと大きく異なる変動を示した。 (考察)脳圧上昇に伴い脳灌流圧が低下すると安静時脳代謝のみならずneurovascular couplingにも大きな影響を与えることが明らかとなった。今後は組織学的な検討を加え脳圧上昇に伴う神経障害を検討する予定である。
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