研究課題/領域番号 |
16K20013
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
中山 寛尚 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 助教 (40512132)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 軸索誘導因子 / 髄芽腫 / 転移 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
小児脳腫瘍である髄芽腫は、小脳に発症する悪性腫瘍である。髄芽腫細胞は非常に細胞遊走・転移能が高いため、小脳から脳実質、脊髄に播種転移する傾向があり、この場合、予後は非常に悪い。髄芽腫に対しては外科的手術後、放射線や化学療法が一般的であるが、とくに高転移タイプ髄芽腫に対してはいまだ確立された治療法はなく、髄芽腫の発症メカニズムも含めてさらなる基礎的研究が必要である。私のこれまでの成果として、軸索誘導因子netrin-1を用いて髄芽腫の浸潤能の程度を『予測』することに成功した。これらの結果を基に、私はnetrin-1が髄芽腫の浸潤・転移と血管新生誘導因子と捉え、netrin-1シグナルを『抑制・制御』することが髄芽腫治療に極めて重要であると考えた。そこで、netrin-1とその受容体分子の阻害剤の探索・開発と髄芽腫治療のための臨床応用を目指したいと考えている。 これまでに髄芽腫形成にはSonic hedgehog (Shh)リガンドとそのレセプターによるシグナルが大きく寄与していることが明らかとなっている。さらにShhシグナルは腫瘍の供給源とされる癌幹細胞の維持にも重要な分子であり、Shhシグナル阻害剤が有効な髄芽腫治療標的と考えられている。しかしこれらの阻害剤の効果は十分でないことから、髄芽腫増殖、癌幹細胞維持には複数の分子が関与していることが示唆されている。 私はnetrin-1とShhシグナルが密接に関連していること、さらにnetrin-1シグナルが髄芽腫の癌幹細胞維持機構に重要であると考えており、Shhとnetrin-1シグナルを抑制することが髄芽腫治療に極めて重要であると考えている。そこで本研究では髄芽腫幹細胞維持機構を阻害するためnetrin-1シグナルを標的とした阻害剤開発に挑む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
髄芽腫細胞を非接着環境下で培養して癌幹細胞集団を濃縮したところ、netrin-1遺伝子が接着細胞に比べて約40倍上昇していることを見出した(未発表データ)。またnetrinレセプターのうち、2種のレセプターも強く誘導されていることを見出した。さらに、髄芽腫細胞ではShh刺激によってnetrin-1遺伝子発現が約1.5~2倍程度、誘導されること、Shh型髄芽腫自発発症モデルマウス(Smo/Smoマウス:変異型Shhレセプターsmoを発現するマウス)を用いた実験では、髄芽腫部位でnetrin-1(約5倍)とそのレセプターであるneogenin(約10倍)が上昇していることを確認した(中山 未発表データ)。 一方で、netrinシグナル阻害剤として考えている環状ペプチド開発には、精製度の高いnetrin-1タンパク質が必要である。現在のところ、環状ペプチド探索に必要な精製度には到達していない。
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今後の研究の推進方策 |
Netrinシグナルを阻害する環状ペプチド探索のためのnetrin-1タンパク質の精製を引き続き行う。夾雑物を除いて精製度を高めるため、ゲルろ過カラム等を用いて改善を進める。環状ペプチド開発が困難な場合は、netrin-1とそのレセプターの相互作用を阻害する低分子化合物をスクリーニングする。評価系は愛媛大学プロテオサイエンスセンターでタンパク質間相互作用解析法であるAlphaScreenシステムを基盤としたハイスループット・スクリーニングシステムによって行なう。まずはnetrin-1と髄芽腫幹細胞より同定した候補レセプターをそれぞれコムギ無細胞タンパク質合成技術によって作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた学会参加費に関して、一部旅費助成を受けることができたため、旅費への使用額が減ったため。また、H29年度より愛媛大学から広島国際大学へ異動することになり、その準備のため一部を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した金額は、新たな赴任地である広島国際大学において研究立ち上げのために一部消耗品に使用する。また愛媛大学との共同研究を続けるため、一部を旅費に充てる。
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