研究課題/領域番号 |
16K20025
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
林 佐衣子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (30464952)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳腫瘍 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
本研究は脳腫瘍を対象として効果的治療法確立のための腫瘍の生物学的特性を反映する分子生物学的分類の確立、腫瘍発生メカニズムの解明などを目的とする。 平成28年度は1.1p19q共欠失を持つ神経膠腫における予後因子の解析、2.妊娠中に発症した脳腫瘍における腫瘍増大機序の検討につき検討を行った。 上記1に関しては、1990年から2010年の間に当院で手術を行った症例のうち1p19q共欠失を持つWHO grade 2、3のグリオーマの57症例を対象とし、病理組織型の再検討、CGH法による染色体解析、MGMTプロモーターメチル化解析などの分子生物学的解析を行い、治療開始時の年齢、手術摘出率、腫瘍最大径、初回補助療法などの臨床的予後因子を含めて予後因子の解析を行った。本課題に関しては2017年3月に論文化した。 上記2に関しては、2003年から2014年の間に当院および共同研究機関で手術を行った症例のうち妊娠中あるいは分娩後に発症した脳腫瘍11例(神経膠腫4例、髄膜腫3例、脊索腫2例、聴神経鞘腫2例)を対象とし、CGHによる腫瘍染色体解析、ホルモン受容体やgrowth factor(estrofen receptor(1D5)、progesterone receptor(PgR636)、androgen receptor(AR27)、EGFR(31G7)、HER-2(CB11)、VEGFR-1(AF321)、VEGFR-2(55B11))の免疫組織化学的解析を行い、腫瘍型や発症時期(各ホルモン分泌のピーク時期など)との関連、共通する分子生物学的異常などにつき検討を行った。CGHおよび免疫染色(MC045)にてc-Myc遺伝子の増幅あるいは発現増加が複数の症例で認められ、妊娠中あるいは分娩後に腫瘍が増大する機序との関連性につき現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記1に関しては、2017年3月にJournal of Neuro-Oncology誌にて研究結果を発表した(Molecular-genetic and clinico pathological factors in patients with gliomas showing total 1p19q loss: gain of chromosome 19p and histological grade Ⅲ negatively correlate with patient's prognosis. J Neurooncol (2017)132:119-126). 上記2に関しては、現時点ですでに9割の解析が終了しており、今年度中にはすべての解析を終了し論文化できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
上記2に関し、未終了である解析を継続する。 また、平成29年度より1p19q共欠失を持たない神経膠腫における病理組織学的、分子生物学的予後因子の検討を行う。本課題は、1990年から2010年の間に当院で手術を行った症例のうち1p19q共欠失を持たないWHO grade 2、3の神経膠腫160例において病理組織型の再検討、組織学的グレード、CGHにおける染色体コピー数異常、IDH変異の有無、p53変異の有無、ATRX遺伝子発言の有無、TERT遺伝子プロモーター領域変異の有無、BRAF-KIAA fusionの有無(FISH)などの形態学的・分子生物学的解析、および治療開始時の年齢、摘出率、初回治療法などの臨床因子を解析し、生命予後との関係を分析する。病理組織型の再検討においては、当院病理部のみならず、他院神経病理医による再判定も行い、特に形態学的乏突起膠腫の意義を分析する。IDH変異あり・1p19q共欠失なしの予後不良例においてはエクソームシークエンスを行い、TCGAの結果などと比較検討予定である(特に早期の悪化を示した約5例で予定)。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品の購入に使用する予定である。
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