脳動静脈奇形は破裂により重篤な脳出血を来たし、特に若年者の脳出血における主要な要因となっている。ときに遺伝性症候群における一症候として発現することもあり、いくつかの原因遺伝子も特定されている。本研究ではその中で世界的にも稀な遺伝性疾患であり、かつ今までに日本人における遺伝学的知見の報告がないCapillary-arteriovenous malformation (CM-AVM)の日本人患者における遺伝的背景を明らかにすることを目的として研究を開始した。 本研究での最初のステップとして、2つの日本人CM-AVM家系についてサンプリングを行い、すでに原因遺伝子として認識されているRASA1遺伝子の25個のエクソンおよびエクソン-イントロン間隙のダイレクトシーケンスを行う予定であったが、早期にRASA1遺伝子以外の新規疾患遺伝子の可能性を模索するため、両家系の2人の発端者に対して全エクソーム解析を行った。その結果、いずれの発端者においてもRASA1遺伝子にそれぞれ異なる機能喪失型変異が検出され、サブクローニングおよびダイレクトシーケンスにより確認を行った。これらの変異はそれぞれ2つの家系内で疾患とco-segregationしており、かつ一般人口にも存在しないことを確認した。全エクソーム解析では、他に2名の発端者で共通して機能障害性変異をきたしている遺伝子はなく、RASA1遺伝子が日本人患者でも原因遺伝子となることを初めて証明した。また、検出された変異の一方はスプライスサイト変異であり、スプライシング異常を検証するため、培養細胞にスプライス変異を組み込んだエクソントラップ・ベクターをトランスフェクションして、実際にスプライシング異常が起こることを確認した。 これらの研究成果は平成29年度に複数の学会で報告。平成30年度は論文作成期間に当て、現在、英文学術雑誌に投稿中である。
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