研究課題/領域番号 |
16K20045
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
吉田 和薫 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (60770774)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / PD-1 / モデルマウス |
研究実績の概要 |
<方法>マウス(C3H/HeSlc、日本エスエルシー)の背部皮下にマウス骨肉腫細胞株(LM8、理研cell bank)を移植し、骨肉腫モデルマウスを作成した。準拠した論文に従い作成すると腫瘍の成長が早く、人道的エンドポイントで安楽死させた場合に肺転移が確認できない例が散見された。腫瘍死の再現としての妥当性と、抗PD-1抗体の肺転移への影響が評価しにくいとの観点からモデルマウス作成のプロトコールを検討した。マウス抗PD-1抗体(4H2、小野薬品工業)を腫瘍移植日から3回/週の頻度で合計5回(1回あたり20mg/kg)腹腔内投与し、腫瘍体積と生存期間を調査した。統計学的検討として腫瘍体積はt検定、生存期間は生存曲線を作成しLog Rank解析を行った。実験に当たり「研究機関等における動物実験の実施に関する基本指針」、「信州大学動物実験等実施規程」を順守した。<結果>初期の移植細胞数を1×10^7から1×10^6に減じ、人道的エンドポイントで安楽死させたところ全例肺転移を認めた。腫瘍体積はコントロール群560.5±297.1立方mmに対し、抗PD-1抗体群59.5±53.0立方mmと、腫瘍増大の抑制を認めた(移植2週後、p<0.01)。生存期間はコントロール群23.2±0.8日に対し、抗PD-1抗体群38.0±4.8日と、生存期間の延長を認めた(p<0.01)。<考察>抗PD-1抗体の投与は骨肉腫モデルマウスにおいて腫瘍の増大を有意に抑制し、生存率を改善した。PD-1/PD-L1インタラクションの阻害が腫瘍抑制的に作用したと考えられ、骨肉腫に対する抗PD-1抗体の有用性を示す結果であった。<意義および重要性>骨肉腫に対する抗PD-1抗体による治療成績は基礎研究レベルでも報告がなく、今回の結果は今後抗PD-1抗体を骨肉腫に適応拡大するうえで重要な意義を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルマウスの作成は原著に従い行う予定であったが、人道的エンドポイントを順守すると予想外に早く腫瘍径が許容上限に至り、安楽死となることがあった。原著論文は、4週間の経過観察の後に100%の肺転移率を認めたという結果であったが、本研究では安楽死の時期が早いと肺転移を起こしていない場合があった。そこで、移植時の腫瘍細胞数を減じた群を作り、モデルマウスの作成方法の検討を行わなければならず、予想外に時間がかかった。その後の抗PD-1抗体の投与量や投与経路に関する実験系自体はもともと実験経験の蓄積がある小野薬品工業からの情報提供を受けたこともあり、順調に構築することができた。 治療効果を検討するうえで要となるin vivo実験における生存日数の改善を示す結果がすでに得られており、今後は実験計画に従い、組織検体の評価や治療効果の機序の解明に進むことができる。
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今後の研究の推進方策 |
実験計画に従い組織検体の免疫染色を行い、腫瘍に対するT細胞の浸潤の有無を評価する。また、PD-L1およびPD-L2発現の変化、Wntシグナル活性(リガンド、レセプター、標的遺伝子、βカテニンの発現など)をリアルタイムPCRおよびウエスタンブロット法で解析する。そのうえで生存率、腫瘍の大きさ、遠隔転移の有無と分子生物学的解析の結果の相関性について検討し、治療効果および効果の優劣と分子生物学的な解析結果との関連性を解析する。 さらに、実験計画書に従い、他の骨肉腫cell lineでも同様の結果が得られるかどうか検討を行う。現時点では抗PD-1抗体による治療とWnt経路の関連を示唆する所見は得られていないが、今後の解析の進捗によってはWnt阻害剤との併用治療を視野に検討を行っていく。 また、治療効果に影響を与える可能性のある因子として、腫瘍のPD-L1分子発現量をはじめとした免疫チェックポイント分子の発現の評価を行う予定である。 また、一方で抗PD-1抗体単剤では完治に至らない背景として、抑制性T細胞(Treg)の増加などが起こっている可能性を予備実験で確認しており、本実験としてデータを収集する予定である。T細胞自体の機能にも着目し、抑制性T細胞の割合や腫瘍免疫に関連する分子の発現を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んだよりも安価で遂行できたため、若干の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分と合算し、予定通り実験試薬およびキット、マウスの購入、維持に使用する。
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