本研究の目的は,サルコペニアの病態におけるL型カルシウムチャネル(LTCC)のβサブユニットの役割と,治療標的としての可能性を明らかにすることである。これまでの研究で,研究代表者らは,複数の筋萎縮モデルマウスに共通して,LTCCのβサブユニットの発現が増加していることを明らかにしてきた。また,老齢マウスおよび坐骨神経を切除した除神経モデルマウスを用い,前脛骨筋の筋力,断面積,単位面積あたりの張力(特異張力)が減少していることについても明らかにした。 今年度は,正常マウスの骨格筋にin vivoでLTCCのβサブユニットを過剰発現させる実験を行った。LTCCのβ1サブユニット遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターに組み込み,前脛骨筋に投与し,2週間後に測定を行った。しかし,今回の実験では筋の特異張力および断面積に有意な変化は認められなかった。 また,LTCCのβサブユニットの発現量の増加が骨格筋の興奮収縮連関にどのように影響するかを明らかにするために,除神経モデルマウスの短趾屈筋を用いてカルシウムイメージング解析を行った。その結果,除神経を行った筋繊維では,単収縮および強縮電気刺激に対するカルシウムトランジェントが有意に減少していることが明らかになった。また,イオノマイシンおよびシクロピアゾン酸刺激によるカルシウム放出も有意に低下していた。これらの結果から,除神経を行った筋線維では筋小胞体内のカルシウム含量が低下していることが示唆された。現在,LTCCのβサブユニット増加と筋小胞体のカルシウム含量低下の関連についてさらに検討を行っている。
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