研究実績の概要 |
発生過程の腱・靱帯の前駆細胞にはbHLH型転写因子のScleraxis(Scx)が発現し,特にScxと転写因子のSox9を共発現する細胞集団が腱・靱帯付着部の形成に寄与することが報告されている。 本研究では成体の腱板付着部損傷後の修復過程におけるScxおよびSox9発現細胞の参画を明らかにするために,ScxGFP遺伝子改変マウスの腱板付着部損傷モデル(損傷後4週までに線維軟骨層が再生しないモデル)の修復過程を経時的に評価した。その結果,損傷後1週以降の修復部にSham群より多数のScx発現細胞がみられ,また,修復部に少数のScx/Sox9発現細胞が損傷後1週をピーク(修復部関心領域全細胞中12%)として一過性にみられることを確認した。 最終年度ではScx発現細胞の増殖能をKi-67,また,Sox9発現細胞と間葉系幹細胞の関連を間葉系幹細胞マーカーであるCD90とSox9の免疫染色で評価した。さらに,Scx発現細胞におけるFGF,BMP,TGFシグナルの関与についてそれぞれのシグナル伝達因子のリン酸化を免疫組織学的に解析した。その結果,Scx/Ki-67共発現細胞は最も高い損傷後1週で6%であり, 修復過程においてCD90/Sox9共発現細胞はほとんどみられなかった。また,損傷後1週から2週にかけて一部のScx発現細胞においてリン酸化MAPKおよびリン酸化Smad3の発現がみられるものの,損傷後4週ではほとんどみられなかった。以上の結果から,腱板付着部損傷後に線維軟骨層が再生しない本モデルにおいて,ScxおよびScx/Sox9発現細胞の増殖能は限られていること,また,Scx発現細胞にMAPKおよびSmad3を介した制御が関与している可能性が示唆された。本成果はScxおよびScx/Sox9発現細胞を標的とした修復促進治療の確立につながる知見となることが期待される。
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