重症敗血症では急性腎不全の併発が死亡率を上昇させることは広く知られている。急性腎不全の治癒が得られなければ、慢性腎不全に至る。腎機能が廃絶した場合は、維持透析が必要となり、その場合の医療費の増大は計り知れず、その予防は最重要課題である。本研究では、敗血症モデルを用いて急性腎不全から慢性腎不全に移行する新たなる病態を解明する。さらに、慢性腎不全に進行しない予防的治療法の検討を行う。 敗血症性ショックでの全身臓器低潅流に伴う腎臓低潅流から、糸球体・尿細管細胞の虚血壊死を来たし、急性腎不全を発症する。急性腎不全後の腎機能回復例では一過性の腎機能障害を来たした後に、再潅流による腎臓の生存細胞の機能再開や糸球体・尿細管細胞の再生により機能回復を見る。しかし、この後に腎機能が悪化して慢性腎不全へと進行する症例も多いため、敗血症性ショック後にリンパ球を中心とした炎症反応が腎臓間質でどの様に生じているかの病態解明と、腎尿細管細胞におけるアポトーシスの病態解明が不可欠である。また、リンパ球浸潤と尿細管アポトースに影響を与えるKv1.3やCaチャネルが本病態へどのように関与しているかの解明も不可欠である。 我々はこれまでに、第二世代抗ヒスタミン薬を用いて、Kv1.3チャネル電流の抑制と電気的細胞膜容量の測定からこれらの薬剤と細胞膜との相互作用による免疫抑制作用の機序を証明した。さらに、ラット慢性腎不全モデルを用いて、腎臓皮質領域にリンパ球やマクロファージなどの炎症性細胞が数多く浸潤し、浮腫と線維化で拡大していることを証明し、さらに、腎不全の進行とともに、浸潤したリンパ球の細胞膜上にKv1.3チャネルが過剰発現していることを明らかした。さらに、本年度は、ジヒドロピリジリン系Ca拮抗薬(ベニジピン)が腎線維化に抑制作用を示すかどうかを検討し、第二世代抗ヒスタミン薬の抗線維化作用の検討を引き続き行う。
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