研究実績の概要 |
モルヒネ塩酸塩30nmol, 60nmol/5μlを無麻酔下で髄腔内投与すると,投与直後から5分間で用量依存的に侵害刺激行動が現れた.この侵害刺激行動のほとんどが引っ掻くまたは噛むといった行動を示すことから,痒みを表現していることが示唆された.そこで,侵害刺激行動が起こる最低用量のモルヒネ30nmolを髄腔内投与し,オピオイド誘発性痒み(Opioid-Induced Itch: OII)モデルとして以後検討を行った.また,オピオイドの痛覚伝導路とセロトニンによる下行性抑制系の関係は既知であることから,モルヒネによる痒み行動とセロトニンとの関係を行動学的および生化学的に検討した. ①モルヒネによる痒みの誘発:モルヒネ30nmol投与後,コントロールと比較すると痒み行動は増加した.ウエスタンブロッティング法により,痛みや痒みとの関係が報告されているMAPキナーゼのうち,脊髄後角でのERKのリン酸化の増加がみられた.また,ヒスタミン非依存性痒み物質として知られているGRP(Gastrin-releasing peptide)の発現は,脊髄後角Ⅰ・Ⅱ層で免疫組織化学染色法により増加がみられた.セロトニン合成酵素阻害剤PCPA(p-chrolophenylalanine)の前投与によるセロトニン合成阻害を行ったマウスでは,OII行動が有意に抑制された. ②セロトニン受容体の一つ5-HT3受容体拮抗薬オンダンセトロン(OND)によるOIIに対する変化:モルヒネ投与30分前にONDの腹腔内投与により,モルヒネ30nmolによる痒み行動を有意に抑制した.しかし,ERKのリン酸化の抑制効果はみられなかった.IHC法を用いたGRP発現増加に対するONDの効果は引き続き検討中である. ③TRPA1の検討:TRPA1の免疫組織化学染色法は抗体がうまくワークせず,引き続き条件検討中である.
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