研究実績の概要 |
HUS(溶血性尿毒症症候群)は,EHEC(腸管出血性大腸菌)感染によって産生されたベロ毒素による微小血管障害が病態と考えられている.ベロ毒素による微小血管障害は,微小血管障害そのものによる臓器障害だけでなく,血管内皮障害によって生じる高サイトカイン血症が病態をさらに悪化させている可能性がある.しかしベロ毒素がどのように炎症反応を惹起し,HUSを引き起こすかは多くの謎がある.またその治療法を開発するにあたって,HUSモデルラットの開発は絶対必要な過程であるため,本年度の研究としては,HUSモデルラットの作成を主な目標とした. HUSモデルラット作成のため,ベロ毒素2(from E.coli O‐157, NAKARAI TESQUE, INC, Japan)を腹腔内に1μg/kg投与し生存率を検討した(n=20).5日間の生存率は20%であり,LDHの著増とBUN,クレアチニン値の上昇を認めたが,HUSの特徴である貧血と血小板減少を認めず,むしろ血液濃縮を示唆する所見であった.また,腎の顕微鏡的所見では,微小血管の血栓閉塞を認めたが,炎症細胞浸潤やアポトーシスは認めなかった.また,血中サイトカイン値もほとんどのラットで変化が見られなかった。以上より,HUSを発症しての死亡というよりもむしろベロ毒素2により全身血管から血管内容量の漏出が生じ,これによるショック,全身過凝固による血栓症によって死亡したものと考えられた.
|