近年、敗血症性ショック患者のTリンパ球に免疫チェックポイント制御受容体PD-1が、単球表面上にそのリガンドのひとつPD-L1が発現している事が示され、さらに敗血症患者の単球に発現するPD-L1の発現量が中長期的な敗血症における死亡率の上昇と相関していることが指摘された。そのため敗血症治療においてPD-1/PD-L1 pathwayを制御することが敗血症治療戦略の1つとして考えられはじめた。 細胞外小胞 (Extracellular Vesicles)はmicroRNAなど生理活性分子を内包し、局所および遠隔細胞間コミュニケーションに関与している。我々は敗血症を含むSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome)病態の57名の患者血液中の細胞外小胞の表面に発現する接着分子インテグリンとPD-1リガンド(PD-L1とPD-L2)の動態を検討した。その結果、敗血症患者の細胞外小胞表面にbeta2 インテグリンが強く発現していることを見いだした。また、敗血症患者およびSIRS患者の細胞外小胞表面にはPD-L2が健常人と比較して有意に高発現していることを確認した。さらに我々はこれらのインテグリンおよびPD-L2と患者の臨床データとの相関を検討し、①敗血症患者の細胞外小胞のbeta2 インテグリンは低血圧(ショックの程度)と相関し、②SIRS患者における細胞外小胞のPD-L2はリンパ球数の減少と相関していることを発見した。 beta2 インテグリンは白血球特異的であるため、この細胞外小胞表面のbeta2インテグリン発現増強現象は敗血症性ショック状態における細胞外小胞と細胞の接着・相互作用のメカニズムに関与する可能性がある。さらにSIRS患者の細胞外小胞のPD-L2発現増強現象は、リンパ球表面のPD-1と結合して細胞間で認められる免疫チェックポイント機構と同様のメカニズムで免疫抑制、ひいては重症多臓器不全下にある患者の免疫麻痺病態に関与している可能性がある。
|