研究課題
本研究は,転写因子Nuclear factor E2-related factor 2 (Nrf2) が時間差を持って臓器細胞と炎症細胞に必要とされる現象に注目し,時間的・空間的視点を取り入れて検討することを目的としている。そのために,Lipopolysaccharide (LPS) 投与によるHeme oxygenase-1 (HO-1) などの遺伝子発現変化を臓器細胞と炎症系細胞について経時的に解析する。研究初年度である平成28年度は,LPSを腹腔内投与することによってマウスでの敗血症モデルを作製し,致死量のLPSを投与する前に低用量のLPS投与を先行させることで得られるプレコンディショニング (PC) 効果を肝臓について検討した。雄性C57BL/6マウスを用いて低用量のLPSを腹腔内に前投与し,5日後に致死量のLPSを本投与するPC群と,前投与を行わない対照群とを比較した。その結果,低用量LPS投与によるPCは,致死量LPS投与後の生存率を改善し,血漿トランスアミナーゼ値の上昇を抑制した。また,DNAマイクロアレイを用いた解析を行い,PCによって抗酸化分子群が活性化されることを明らかにした。さらに,Nrf2レポーターアッセイによって,LPS本投与後のNrf2活性化がPCにより増強されることを確認した。ウエスタンブロッティングや免疫染色による検討を行った結果,主にKupffer細胞でのNrf2の活性化が,肝障害を軽減するPC効果のメカニズムであることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
LPS投与による臓器細胞での遺伝子発現解析やLPS投与による個体生存率に関する検討は,当初の計画通りに実施できた。その中で,炎症細胞でのNrf2活性化が,LPSに起因する臓器障害の軽減に関連していることを明らかにすることができた。
平成29年度は,肺など他の組織細胞や株化マクロファージや腹腔内マクロファージなどの炎症細胞について同様の検討を進める。次に,Nrf2発現の時間差調節によるLPS誘導障害の抑制実験に移行する。
費用がかかる計画が次年度に持ち越す形になっており,研究初年度は残高が生じている。
平成29年度の研究計画に沿って,抗体やELISAキットなどを購入予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
Yonago Acta Med
巻: 59 ページ: 223-231
Biochim Biophys Acta
巻: 1860 ページ: 2404-2415
10.1016/j.bbagen.2016.07.008
Neurosci Lett
巻: 610 ページ: 117-122
10.1016/j.neulet.2015.10.062
巻: 59 ページ: 188-195