本研究は,転写因子Nuclear factor E2-related factor 2 (Nrf2) が時間差を持って臓器細胞と炎症細胞に必要とされる現象に注目し,Lipopolysaccharide (LPS) 投与によるHeme oxygenase-1 (HO-1) などの遺伝子発現変化を臓器細胞と炎症系細胞について経時的に解析した。 LPSを腹腔内投与することによってマウスでの敗血症モデルを作製し,致死量のLPSを投与する前に低用量のLPS投与を先行させることで得られるプレコンディショニング (PC) 効果ついて検討した。その結果,低用量LPS投与によるPCは,致死量LPS投与後の生存率を改善し,血漿トランスアミナーゼ値の上昇を抑制した。さらに,Nrf2レポーターアッセイによって,LPS本投与後のNrf2活性化がPCにより増強されることを確認した。ウエスタンブロッティングや免疫染色による検討を行った結果,主にKupffer細胞でのNrf2の活性化が,肝障害を軽減するPC効果のメカニズムであることを見出した。 しかしながら,HO-1の誘導はNrf2の欠失マウスにおいても弱いながらに生じることから,Nrf2以外の経路の関与についても検討を行った。結合配列についてNrf2と相同性を有する転写因子activator protein 1(AP-1)に注目し,JNK(c-Jun N-terminal kinase)阻害薬やレポーターアッセイによってHO-1の誘導にAP-1が関与していることを明らかにした。 また,LPS投与による敗血症後の記憶・認知機能障害モデルを作製し,グルタミン酸トランスポーター阻害薬によって記憶・認知機能障害の軽減効果がもたらされることを見出した。しかし,現時点において軽減効果がもたらされる詳細なメカニズムについては一部しか明らかにできておらず,更なる検討を必要とする。
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