研究課題/領域番号 |
16K20100
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大月 幸子 広島大学, 病院(医), 医科診療医 (90774018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 悪性高熱症 / 局所麻酔薬 / 細胞内カルシウム濃度 |
研究実績の概要 |
悪性高熱症(malignant hyperthermia: MH)は、揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬により誘発される常染色体優性遺伝の筋疾患である。骨格筋小胞体内の1型リアノジン受容体(RYR1)の変異による、カルシウムCa2+の過剰な放出が原因で発症するが、稀な疾患であり、その詳細は明らかになっていない。 近年、手術麻酔の領域では、術後鎮痛としての持続神経ブロックの有用性が増している。持続神経ブロックでは局所麻酔薬の血中濃度の上昇により、健常者でも骨格筋のCa2+濃度が上昇することが報告されている。動物実験では、正常なモルモットで局所麻酔薬により、Ca-induced Ca-release ;CICR検査が亢進したとの報告もあり、局所麻酔薬による Ca2+濃度の上昇に、RYR1が何らかの形で関与していることが考えられる。しかし悪性高熱症素因者において、局所麻酔薬がCa2+代謝に与える影響は明らかになっておらず、これを解明することは安全な麻酔を行う上で非常に重要と考えられる。 当教室では、以前より悪性高熱症の素因診断(CICR速度検査)を行っており、その際の余剰筋肉を保存している。現在、これらを培養したヒト培養骨格筋細胞とMH原因変異RYR1を導入したHuman Embryonic Kidney (HEK)293を用い、Ca2+調節機能に対する局所麻酔薬の効果を分析し、MH素因者への安全な投与法と有用な併用薬剤の検討を行っている。それぞれの細胞に、局所麻酔薬(リドカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン)の濃度を変化させて投与した際の Ca2+動態を測定し、悪性高熱症素因の有無や局所麻酔薬の種類でその Ca2+動態に違いが生じるかを求める。最終的に、50%効果濃度(EC50)を求めることで、臨床的にMH素因者にその局所麻酔薬が使用可能であるかを判断する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト培養骨格筋細胞はMH素因群(CICR亢進 16名)と正常群(CICR非亢進 6名)の骨格筋で比較した。各局所麻酔薬のEC50は、リドカインはMH群1.45mM(1.26-2.01)、正常群1.58mM(1.35-1.76)、レボブピバカインはMH群0.313mM(0.198-0.498)、正常群0.449mM(0.398-0.500)、ロピバカインはMH群1.40mM(1.14-1.62)、正常群1.45mM(1.13-1.79)で、いずれも群間に有意差は認めなかった。各局所麻酔薬の中毒域は、リドカイン 20-40μM、レボブピバカイン 8.6μM、ロピバカイン 6.7μM程度であり、いずれも今回使用したヒト培養骨格筋細胞おける各局所麻酔薬のEC50よりはるかに低い濃度である。このことから、今回測定に使用したヒト骨格筋細胞においては、臨床使用の範囲内では局所麻酔薬による細胞内Ca2+代謝への影響はMH素因の有無に関係しないと考えられた。 以上のことから、当初予定していた28年度分の研究内容はおおむね実施することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は当初予定した通り、HEK293細胞における局所麻酔薬のEC50を求めることで、細胞内Ca2+濃度の上昇にRYR1が関与していることを証明する予定である。可能であれば、局所麻酔薬に対する反応が、RYR1の遺伝子変異部位によって異なるかについても追及したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに購入していた備品があり、それらを使用したため、予定していた物品費より実際の使用額が減ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
HEK293細胞の実験に関する物品費と、29年度までの研究内容を国内発表する際に使用する予定である。
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