研究課題/領域番号 |
16K20101
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山下 理 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (20610885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 四肢虚血リモートプレコンディショニング / free radical / dimethylthiourea / 中大脳動脈閉塞model |
研究実績の概要 |
四肢虚血リモートプレコンディショニングによる神経保護効果をラットでの2時間の中大脳動脈閉塞モデル(middle cerebral artery occlusion: MCAO)を用いて検討した。MCAOは虚血手技後の生存率も高く、脳梗塞体積の他神経学的所見も評価しやすいが、虚血のばらつきが多いモデルでもある。これまでの経験から安定した虚血手技が施行できるようになり、きちんと虚血になっているかどうか、ドップラー血流計を前頭側頭部に留置してモニターし、血流低下がみられない場合は虚血不十分と判断し除外している。 リモートプレコンディショニングの条件付けに関しては、直接血管の閉塞を行うのではなく、侵襲を考えてラットの大腿部をハード型のvascular occluderで圧迫し、実際に血流が遮断されたかどうかは指尖部に装着したパルスオキシメーターの脈波消失で判断した。10分間の虚血後5分間の再灌流を3回繰り返し、3回目の再灌流から1時間後に2時間のMCAOを施行したところ有意に脳梗塞体積、神経学的所見が改善し、神経保護効果が認められた。四肢虚血リモートプレコンディショニングの機序として短時間の虚血・再灌流を繰り返すことでフリーラジカルが発生し、それがトリガーになっているのではと考え、プレコンディショニング前にフリーラジカルスカベンジャーを投与して神経保護効果が減弱するかどうか検討した。実際の薬剤については、これまでの他の報告からDimethylthiourea (DMTU)を用いて、その安全性,投与量,投与間隔・時間の検討を行った。 条件付けについてはプレコンディショニング1時間前にDMTU500mg/kgを経静脈的に投与したが、リモートプレコンディショニングの神経保護効果は減弱しなかった。今回の結果からフリーラジカルの関与はそれほど強くない可能性も考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フリーラジカルスカベンジャーとして今回DMTUを使用した。当研究室での家兎脊髄虚血モデルでも使用経験があり、またこれまでDMTUを使用した研究がいくつかあることから、それに基づいて投与量、投与間隔や時間を決定したが、今回の条件では神経保護効果を打ち消すといった有意な影響は認めなかった。またDMTUは刺激性が強く、今回尾静脈から投与したが、少しでも血管外に漏れると壊死を起こすなどの問題も明らかになった。いくつかドーズや時間を変えて実験群をつくるとなるとさらに時間を要し、また他のフリーラジカルスカベンジャーを使用するとしてもその条件付けを最初に行う必要がある。四肢虚血リモートプレコンディショニングの機序・トリガーとしてフリーラジカルの関与が大いにあると考え、今年度までにその可能性を検討して、その一端でも解明することを考えていたが、そこまで至らなかったためやや遅れているとした。 虚血モデルは十二分に確立されていることから、どういった方法でフリーラジカルの関与を証明していくか、次年度から早急に対応を考えて、本研究課題を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
四肢虚血リモートプレコンディショニングの神経保護効果に関しては複数の機序が関与している可能性があり、必ずしもフリーラジカルのみというわけではないかもしれないが、大きなトリガーの一つであると実験者は考えている。 機序解明には何かの手技・薬物投与で効果が減弱するのを検証するのが第一段階である。短時間の四肢虚血を繰り返すことでフリーラジカルが発生し、それがトリガーとなっており、それを減少させることで保護効果が打ち消されるのではというのは非常にわかりやすい仮説であったが、今後はプレコンディショニング前のフリーラジカルスカベンジャーの投与に固執するのではなく、少し見方を変えた多方面からのアプローチも検討していきたい。臨床で使用しているedaravoneなどは急性の脳虚血発作や脳梗塞後の血流再開時に発生するフリーラジカルを捉えて脳神経を保護する働きを持つとして使用されている。フリーラジカルスカベンジャーの効果がプレコンディショニングだけでなく、実際の2hrのMCAO時にまで影響が残存してしまうと、その結果が歪められる可能性もある。作用時間の短い、また確実・安全に投与できる物質があるかどうか検討したい。 またプレコンディショニングによって何らかの抗酸化物質・機構が活性化や、代謝・血流が変化する可能性も考えられる。フリーラジカル自体は非常にturn overが短く活性が消失するのも早いため、直接測定することは困難である。脂質過酸化物や酸化修飾タンパク質等の測定により間接的にその関与を検討していきたい。
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