プレコンディショニングは臓器虚血等の有害刺激の前に短時間の同様の刺激を与えておくことで,その後の有害事象に対して抵抗性・保護効果を発揮する生体の内因性保護機構である.様々な臓器で検討されているが,現在でも脳虚血後の神経障害・後遺症に関して有効な治療法がないことから,脳・神経細胞における保護効果,臨床的な応用についての期待がある. これまでの研究では直接短時間の脳虚血を行うことで,確かに神経保護効果を認めるが,これを実際に臨床応用することは難しい.虚血の代わりにその他の有害刺激を用いて行う場合,虚血時ほど保護効果は強くないようである.またプレコンディショニングには数時間のacute phaseと数日から1週間後のdelayed phaseがあり,後者の方が保護効果は強いとされるが,条件付けや適応が難しいことが考えられる. 四肢虚血リモートプレコンディショニングは,一過性に四肢虚血を繰り返すことで離れた臓器の保護効果を発揮するもので,心臓や他の臓器ではいくつか報告があるが,これを脳虚血のacute phaseで応用できないかと検討したのが今回の検討である.脳でも保護効果は認めるが,心臓などと比較してそれほど強くはない点が判明した.また酸化的ストレス・フリーラジカルがトリガーになっていると推測し,プレコンディショニング中にそれらを除去することで,まずは証明しようと考えたが,理想的なスカベンジャーの同定に至らなかった.フリーラジカルそのものは測定が困難で,酸化代謝物質の変動等も短時間の四肢虚血では,有意な変化を示すことが出来なかった. しかし四肢虚血リモートプレコンディショニングは臨床応用の可能性のある,一つの有効な方法であると考えられるので,他の同様の機序が示唆されている介入と組み合わせたり,別の角度からアプローチによってその有効性や機序の解明を進めることが出来ると考える.
|