研究課題/領域番号 |
16K20112
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
寺田 雄紀 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90745431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疼痛 / 炎症 / 神経化学 |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的としては、各種侵害刺激に対しての反応に差異が認められるMlc1-tTAマウスの解析を通じて、その疼痛関連行動と原因遺伝子を解析することにより、新たな疼痛発生・伝達メカニズムの解明を目指している。 本年度は最初にMlc1-tTAマウスの様々な疼痛刺激に対する反応を検討した。Mlc1-tTAマウスは熱刺激(ホットプレート試験、テイルフリック試験、テイルディップ試験)に対しては野生型と比較して差が認められなかったが、機械刺激(Von Frey試験、paw pressure 試験)に対する感受性の低下が認められた。化学刺激(ホルマリン)に対しては、特に第Ⅱ相の炎症反応の著しい低下が認められた。また、神経障害性疼痛モデルである坐骨神経部分結紮モデルを作製して痛覚過敏に対する反応を検討した結果、Mlc1-tTAマウスでは痛覚過敏が減弱していた。痛覚過敏の形成には炎症が重要であることから、Mlc1-tTAマウスでは炎症反応が減弱していることが示唆される。以上の結果より、Mlc1-tTAマウスでは機械刺激に対する感受性の低下と炎症反応の抑制が起こっていることが示唆される。 次に、これらの現象はどのような遺伝子の欠損に起因するのかを調べるために、トランスジーンの染色体への挿入位置の同定を行った。当初、トランスジーンの挿入部位をThermal Asymmetric Interlaced PCR法を用いて検討を行ったが、同定が困難であったため、次世代シークエンサーを用いての解析も行った。その結果、染色体8qB1.1および11qDの領域にトランスジーンの挿入が予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定としては、Mlc1-tTAマウスの疼痛刺激に対する反応の解析とトランスジーンの染色体への挿入位置の同定を計画していたが、おおむね達成された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の予定としては、今年度同定された2つの候補領域について詳細に検討する。近隣の遺伝子の発現をReal time RT-PCR法を用いて解析することにより、Mlc1-tTAマウスにおいて発現に異常が認められる遺伝子(標的遺伝子)を同定する。サンプルとする臓器や発達時期に関しては、過去の論文やデータベースを調べてから調整する。Real time RT-PCR法により変化があった遺伝子については、特に皮膚から大脳皮質感覚野までの疼痛の伝達経路と、骨髄や胸腺などの免疫に関与する臓器に注目して解析する。 また、Mlc1-tTAマウスではホルマリン試験において第Ⅱ相(炎症反応相)の低下が認められることから、免疫反応、特にマクロファージ系やT細胞に何らかの異常があることが推察される。そこで、マウス骨髄よりmRNAを採取し、マイクロアレイを用いて発現が変動している遺伝子を探索することにより、標的遺伝子がどのような機能を持つか、ある程度推測する。 Mlc1-tTAマウスにおいて発現に異常が認められる遺伝子(標的遺伝子または準標的遺伝子)が同定された後、その遺伝子のノックアウトマウスを作成する。すでに作成され、譲渡または購入可能な場合はその方法を用いる。ノックアウトマウスの作成はCRISPR-Cas9法によるゲノム編集を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、購入予定の試薬類の納期が年度末に間に合わなかったため、購入を次年度に延長したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度における分子生化学実験試薬としてはReal-time PCRを行うのに必要な逆転写酵素や二本鎖DNA結合性蛍光物質、In-situ hybridization法に用いる酵素の購入費に用いる。
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