本研究は、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の病態機序解明と新規治療法確立を目指すものである。平成28年度にはCRPSモデル動物の作成方法を確立するための実験を行い、平成29年度には独自に作成したCRPSモデルマウスに対するTNF-α中和抗体の坐骨神経周囲への局所投与のもたらす効果について検討した。平成30年度には平成29年度までの結果をまとめ、これまでの成果を学会で発表するとともに、より精度の高いデータとするための追加実験を行なった。また、当初は、末梢神経での変化のみを検討する予定であったが、中枢での変化についても考察を加える必要があると判断し、脊髄組織を用いた実験を追加した。 CRPS群では、患肢に腫脹と色調変化が出現し、痛み閾値の顕著な低下が坐骨神経部分結紮(pSNL)処置6週間後まで観察された。TNF-α中和抗体を投与後は痛み閾値が徐々に上昇し、6週間後には対照群レベルまで有意に回復した。pSNL処置のみを行い、ギプス固定は行わなかった神経障害痛モデル群にrecombinant TNF-αを投与すると、痛みの回復が遅れる傾向がみられた。CRPS群の坐骨神経および脊髄の免疫組織染色では、TNF-αのシグナルが増強し、マクロファージの浸潤・活性化が見られたが、TNF-α中和抗体を投与したCRPS群ではそのような炎症反応が抑えられていた。 CRPSモデルでは、ギプス固定により、坐骨神経への物理的圧迫や強制的な不動状態が引き起こされ、神経障害性疼痛が増悪した可能性が考えられた。また、CRPSの発症早期においては、TNF-αを介する炎症性シグナルが重要であることが示唆された。さらに、直接障害されていない脊髄組織においても、発症早期から強い炎症反応が生じていることも、症状を強固にする要因と考えられた。 本研究の一部は、日本麻酔科学会第65回学術集会で発表し、優秀演題に採択された。
|