現在、腎癌の診断において確立された血液バイオマーカーは存在しない。当初、本研究は腎癌手術検体より癌組織と正常組織をそれぞれ採取し、それらを培養液中で培養し、分泌されたエクソソームを分離・回収し、内包されるmiRNAに着目した。しかし組織培養液から得られるエクソソーム中のmiRNA発現解析では腎癌組織由来、正常組織由来での発現に有意差のある候補となるmiRNAは少なかった。これらのことから、我々は腎癌患者血清エクソソーム中の網羅的miRNA発現解析を行い、腎癌患者特異的に発現変化するmiRNAを探索し、腎癌の新規診断モデルを構築することにした。腎癌患者(n=93)、健常者(n=46)から血清350ulを採取し、超遠心法を用いてエクソソームを回収した。エクソソームの回収は以下の3点で確認した(①Western blot法にてエクソソームのマーカーであるCD63、CD81、CD9の発現解析、②ナノ粒子解析装置を用いた粒子径の測定、③透過型電子顕微鏡にてCD9陽性の粒子の確認)。続いて、3D-GeneTM miRNA Oligo Chipを用いたマイクロアレイによる網羅的発現解析を行った。最初に統計学的手法であるランダムフォレスト解析により、新規腎癌診断モデルを構築した。腎癌診断能は、感度97.8%、特異度50.0%、AUC = 0.739であった。現在、マイクロアレイ解析の結果から腎癌診断に有用なmiRNAの組み合わせを導き出すため、人工知能を用いたディープラーニングによる診断モデル構築を進めており、統計学的診断モデルと比較し、その有用性を検証する。今後、本研究から、血清エクソソームを用いた腎癌診断モデルの臨床応用が期待され、患者への負担、医療費の削減を含めた社会への貢献の意義は大きいと考えている。
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