本研究は5-HT3受容体の膀胱における機能的役割を解明することを目的とした。まず排尿反射経路での5-HT3受容体の分布を検討した。Htr3a-EGFP遺伝子改変マウスを用いて膀胱や一次求心性神経、脊髄、遠心性神経での5-HT3受容体の分布を解析した。その結果5-HT3受容体が一次求心性神経に豊富に発現していること、その末梢枝が膀胱の粘膜下層と筋層に、その中枢枝が脊髄の後角や深層に分布していることが分かった。また5-HT3受容体が副交感神経節後神経節である骨盤神経節の神経細胞に豊富に発現していることも明らかにした。この過程で、膀胱筋層内に5-HT3受容体陽性の構造物が散在することを発見した。当初この構造物は細胞ではないかと考えたが、詳細な解析の結果、その多くは神経線維の束であった。しかしながら、一部は5-HT3受容体陽性の細胞であった。この細胞は免疫組織化学的検討によりc-Kit陰性、αSMA陰性、PGP9.5陽性、ChAT陽性であった。この結果から、この細胞は副交感神経節後神経節の神経細胞の一種ではないかと考えられた。5-HT3受容体は排尿反射経路に豊富に分布しており、膀胱において何らかの機能的役割を有している可能性が示唆された。次に機能解析を行った。マウスに5-HT3受容体作動薬を投与すると、頻尿状態となることが分かった。一方、5-HT3受容体のノックアウトマウスの膀胱機能は野生型マウスと明らかな差が無いことも分かった。5-HT3受容体は正常状態では機能しておらず、何らかの病的状態において頻尿となる病態に関与していると考えられた。また、マウスに5-HT3受容体作動薬を投与すると、最大膀胱容量が減少するとともに残尿量も減少することが分かった。最大膀胱容量の減少は求心性神経の5-HT3受容体、残尿量の減少は遠心性神経の5-HT3受容体の活性化によるものではないかと考えられた。
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