研究課題
膀胱癌細胞株BC31、RT4、T24、5637を用いて、NCL1を投与し、WSTアッセイで生存細胞数を評価したところ、いずれの細胞株においても濃度依存的な細胞数の抑制を認めた。ウェスタンブロットではアポトーシスの誘導が確認された。また、臨床検体におけるLSD1発現の意義の検討のため、名古屋市立大学病院で膀胱全摘除術もしくは経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した169例の免疫染色を行い予後との相関を解析した。免疫染色はLSD1の他に、細胞増殖マーカーであるKi67、膀胱癌の悪性度の指標となるp53、腫瘍血管を評価するCD31を評価項目とした。Keyence画像解析ソフトを用いて各免疫染色を定量化して評価した。LSD1とKi67、p53、CD31、のPearsonの相関係数はそれぞれr=0.26、0.10、-0.08であり強い相関を認める項目はなかった。また予後については、LSD1の免疫染色スコアを中央値で2群に分け、Kaplan-Meire法で算出し、Log-rank testで検討した。Overall survival、Cancer specific survival、progression-free survivalにおいて2群間に有意差を認めなかった(p=0.70、0.61、0.94)。以上よりヒト検体におけるLSD1の免疫染色は本研究の範囲内では明らかな予後マーカーとはなり得なかった。今後は、膀胱癌細胞株におけるNCL1の細胞増殖抑制効果のメカニズムのさらに詳細な検討、ならびに膀胱癌モデルラットおよび膀胱癌モデルマウスにおけるNCL1の抗腫瘍効果および有害事象、効果のメカニズムの検証を行う。また、臨床検体におけるLSD1ほかの発現の意義の検討としては、病理学的深達度毎での検討などさらに詳細な検討を予定している。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は、NCL1が膀胱癌各細胞株に対していずれも濃度依存的な抗腫瘍効果を発揮し、治療薬としての可能性を持つことが示された。さらに、そのメカニズムの一つとしてアポトーシスの誘導が関与していることが示された。これらの実験を通じて適切な投与濃度など実験手法の確立も進展したため、引き続きフローサイトメトリー等でさらに詳細な解析を行うことが可能と考える。また、動物モデル実験の準備として、ヌードマウスを用いた皮下移植モデルの予備実験を施行した。各種細胞株を用いて、皮下移植モデルの作成の検討を行い、BC31が安定した造腫瘍性を示すことが確認できた。平成29年度に予定している皮下移植モデルを用いた実験においてはBC31皮下移植モデルを用いて実験を行う予定である。さらに、上記の実験と並行で、当初は平成29年後に予定した臨床検体の集積および臨床データの蓄積を前倒しで行った。LSD1と予後との関係、あるいは他の蛋白との関連については予測した結果と異なっていたが、深達度などとの関連や、平成29年度の実験結果により得られると期待される関連因子について、引き続き解析を行っていく予定である。
In vitro実験としては、細胞株を用いて引き続きオートファジー関連蛋白のウェスタンブロットやフローサイトメトリーを行い、NCL1による増殖抑制のメカニズムのさらに詳細な解析を行う。また、動物モデルの実験におけるマイクロアレイ解析の結果などから、変化が認められた遺伝子領域のメチル化状態の変化についてChIPアッセイを用いて解析する。さらに、NCL1とオートファジー阻害剤の併用効果について、WSTアッセイ、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーにより検討する。これらにより膀胱癌で、LSD1の抑制およびオートファジー制御によって生じる細胞増殖抑制のメカニズムを明らかにする。発がんモデルにおける検討としては、6週齢雄ラットに化学発がん物質であるBBN (N-butyl-(-4-hydrobutyl) nitrosamine)、PEITC (Phenyl isothiocyanate)を投与し、hyperplasia、dysplasia、CIS、carcinomaと多段階発がんをきたすモデルラットを作成する。各段階における、LSD1と膀胱癌の増殖能のマーカーとなるKi67、FGRの発現変化を検討し、LSD1が膀胱癌の進展においてどのように関わっているかを明らかにする。また、皮下移植モデルを用いた検討としては、BC31の造腫瘍性や浸潤能に着目し、BC31をヌードマウスへ皮下移植する。そしてNCL1を腹腔内投与し、抗腫瘍効果を諸臓器における副作用を病理学的に検討する。さらに効果のあった個体となかった個体の血液サンプルでcDNAマイクロアレイを行い、発現差のある遺伝子を網羅的に検索する。臨床検体におけるLSD1ほかの発現の意義の検討としては、病理学的深達度毎での検討などさらに詳細な検討を予定している。
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