研究課題
我々は最近、前立腺癌や乳癌細胞においてエストロゲンがARを活性化するという奇妙な分子機構の存在を報告し、その解析過程でD3もARを介した転写制御を行うという知見を得た。前立腺癌においてD3は増殖抑制作用を持ち、またその作用がアンドロゲン依存的であるとも報告されていることから、アンドロゲンとのクロストークを含めたD3が有する抗腫瘍作用に興味が持たれる。そこで、本研究では、LNCaP細胞におけるDHTとD3間のクロストークの実態の解明を試みた。ホルモンを投与したLNCaP細胞の発現遺伝子をマイクロアレイで網羅的に解析した。その結果、共通して制御される23遺伝子が特定され、興味深いことにその内の8遺伝子がmetallothionein (MT) のファミリー遺伝子であった。MT遺伝子群は全てDHTとD3に共通して抑制的に制御され、各種の核内受容体をsiRNAでノックダウンしたところ、両ホルモンは共通してARを介した転写抑制であることが明らかとなった。このクロストークは、MT2AとMT1Xの遺伝子上流域に存在するAR結合領域を標的としたChIPアッセイによっても、D3に応答してARがこれらの領域に結合することが確かめられた。これらの結果は、MT遺伝子群がアンドロゲン系へのクロストークを介したD3の標的遺伝子であることを示している。MTは前立腺癌の増殖に関与するとも報告されていることから、D3がこれらの遺伝子発現を抑制することは癌抑制作用としても興味深い。今後、クロストークを介したD3によるMT遺伝子群の転写制御機構を解析し、癌抑制作用の実態に迫りたい。
3: やや遅れている
本研究の諸端として、LNCaP細胞で発現する変異型ARを野生型ARにゲノム編集によって置換した細胞を作出することを計画したが、いまだ作出することが出来ていない。この原因として、高効率にゲノム編集因子を細胞に導入できるエレクトロポレーション機器の導入が遅れたことが挙げられる。H30年度始めに導入される見通しである。また、LNCaP細胞でのD3とDHTの標的遺伝子をマイクロアレイ解析によって解析し、クロストークを介した制御を受ける遺伝子群を同定した。研究計画では、発現解析だけでなくARやVDRの結合部位をChIP-seqで網羅的に解析することを計画していたが、現時点ではqPCR解析での限られたDNA領域でしかARやVDRの結合部位を解析できていない。これらの理由から、本研究はH30年度に延長して継続して研究を進める予定である。
導入予定のエレクトロポレーションを使用したゲノム編集によって、LNCaP細胞で発現する変異型ARを野生型ARに置換した細胞の作出を試みる。また、DHTとD3を投与した際に両ホルモンによって共通に制御される23遺伝子のクロストークの有無を検証した上での制御機序の解明と前立腺癌の増殖機序に及ぼす影響を解析していく予定である。現状、MT遺伝子以外にもD3-VDR軸とDHT-AR軸間のクロストークを介した転写制御を受ける一連の遺伝子群を同定している。これらの転写制御機構には、DNAのメチル化を介した転写制御機構の存在が予想されるため、その全様を解明したいと考えている。
研究進捗状況で説明しように、予定した研究が2年間の研究期間で終了しなかったために1年間の延長を申請している。研究費は、H30年度に導入予定のゲノム編集で使用するエレクトロポレーションの消耗品費や、また、既に同定しているD3-VDR軸とDHT-AR軸間のクロストークを介した転写制御を受ける一連の遺伝子群の制御機構とその機能の解明に必要な消耗品費に使用する。
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