腹腔鏡操作やロボット補助操作は触感覚の欠如から、指導者のみならず術者自身も鉗子作用力の理解困難な面がある。そのため操作の特徴を伝え技術を伝達することは容易ではない。過去に我々は、腹腔鏡鉗子先端や結紮縫合点の作用力計測、腹腔鏡手術およびロボット手術術者の関節肢位の位置計測をテーマに技術分析を行ってきた。本課題では、ロボット補助下前立腺全摘除術における尿道膀胱吻合操作に注目した。吻合時の尿道に加わる作用力の大きさおよび方向(垂直、水平方向)を定量化し、実際熟練者が注意を払っている点を明らかにし、初心者との差を分析することが目標である。前立腺手術における膀胱尿道吻合手技は、糸針を使用し吻合を行うが、尿道への過度の荷重は、尿道組織の損傷に繋がり術後尿禁制に影響すると考えられる。3軸力覚センサを組み合わせた骨盤膀胱尿道吻合モデルを作成し、作用力計測を行える環境を作成した。熟練者7名、初心者8名に対し、疑似膀胱と疑似尿道を全周性に縫合するタスクを課し、運針部位別に尿道への作用力を評価した。吻合時間は熟練者が短く、垂直方向の作用力、手前に尿道を引いてしまう力は初心者のほうが大きいという結果であった。吻合部位による難易度の差を鑑みた方向別の検討では、8-10、11-1時で熟練者の値が初心者と比べ小さく、2-4、5-7時方向では差を認めなかった。2-4時は利き腕と逆の手を使用する頻度が高い事、5-7時は運針が難しい箇所である事が、熟練者の作用力が大きくなる原因と考えられた。現在ステレオ画像に処理を加え、作用力を3次元的に重畳表示するシステムを作成し視覚的なフィードバックによる技術習得の有用性に関して検討を行っている。
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