研究課題/領域番号 |
16K20171
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
榊 宏諭 山形大学, 医学部, 医員 (80744458)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 卵巣がん / ヒストン / メチル化 / 抗癌剤 / シスプラチン / タキソール |
研究実績の概要 |
現在までの進捗状況として先行予備実験を行った卵巣がん細胞株A2780、SKOV-3以外の卵巣がん細胞株、RMG1やTOV21GにおいてもH3K27脱メチル化阻害薬であるGSKJ4は、有意に細胞死を誘導することが明らかにした。この結果はすなわち、卵巣がんにおいて組織型によらず幅広く抗腫瘍効果をGSKJ4が発揮する可能性を示唆している。 さらに、筆者の研究室では卵巣がん幹細胞と並行して肺がん幹細胞に対してのGSKJ4の効果も同様に検討し、肺がん幹細胞でもGSKJ4処理により細胞死が誘導され、がん幹細胞のがん幹細胞性が喪失されることを明らかにした。これはGSKJ4の効果が卵巣がん幹細胞に限られたものではなく、がん幹細胞全般に広く効果をもつ可能性を示している。 さらに、肺癌細胞においてGSKJ4と既存の治療薬を組み合わせることにより、抗腫瘍効果が増強されることも明らかにした。以上の肺がん幹細胞および肺癌細胞に対するGSKJ4の効果については国際誌に報告し掲載済みである。さらに各種卵巣がん細胞においてGSKJ4とCisplatinやTaxolと併用した場合、少なくとも一部の卵巣がん細胞株において、単剤と比べ併用することで有意に細胞死を誘導する可能性が示唆されている。このことは、既に研究者によって国際誌に報告済みである、GSKJ4が卵巣がん幹細胞の幹細胞性を喪失させる、という報告とあわせ非常に重要な意義を持つ。すなわち、既存の治療薬とGSKJ4を組み合わせることで、細胞死を強く誘導し、がん幹細胞を非がん幹細胞に分化させることで、結果として卵巣がんの再発や転移を抑制し、最終的に卵巣がんの治癒につなげることが出来ることを示唆している。 以上より本研究は、卵巣がんの増大および再発・転移を予防するという目標に対してin vitroにおいて極めて有用な結果を残している、といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では1年目でGSKJ4のin vitroにおける卵巣がんに対する効果を検討することに目標を置いている。現在のところ、卵巣がん細胞株A2780、SKOV-3、RMG1、TOV21GをGSKJ4で処理することで、トリパンブルーを用いた色素排除法にて、有意に細胞死が誘導されることを明らかにした。さらにGSKJ4に既存の抗がん剤であるCisplatinやPaclitaxelを併用することにより、単剤群と比較し有意な細胞死を誘導することも明らかにしており、この点において計画は順調と言える。一方で、その細胞死誘導効果の機序に関してはGSKJ4の標的分子であるJMJD3やUTXに着目し、遺伝子ノックダウンの条件を絞りつつ、最適な条件を決定 し、実験を進めているが、研究を進めているが、現在のところ、細胞死におけるJMJD3やUTXの役割を完全に明らかにしたとはいえない。以上より研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
in vitroにおいてはGSKJ4が単剤および既存の治療薬との併用によって、卵巣がん細胞に対して強い細胞死誘導効果を持つことが示唆されている。そこで、まずはその細胞死誘導効果の機序としてGSKJ4の標的分子であるJMJD3/UTXに着目し、JMJD3/UTXが卵巣がんの生存や増大、転移・再発における役割について検討を行う。具体的にはWestern blotやPCRにおけるJMJD3/UTXの発現と前述のGSKJ4による細胞死の度合いについて検討する。さらに、siRNAによりJMJD3/UTXをKnockdown することで、卵巣がん細胞に細胞死が誘導されるか、検討を行う。また、in vivoにおいては、ヌードマウスにおける卵巣がん細胞移植モデルを用いてGSKJ4の投与の有無で生存期間の差をみることや腫瘍径の大きさを比較することでGSKJ4が卵巣がん治療薬となりうるか検討を行う予定である。さらに、卵巣がん患者における臨床検体を用いたJMJD3/UTXの発現、ヒストンのメチル化の程度と、進行度や予後を比較することで卵巣がんにおける、予後予測マーカーの発見を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在ヌードマウスに対してGSKJ4全身投与に対する毒性試験を行っており、長期的な経過観察が必要であるため、その飼育費や技術料が必要であるためこと、さらに、今後の推進方策にも上述したように、次年度以降、担癌マウスモデルを用いた薬剤投与実験等で、多数のマウスおよび薬剤が必要となるため、と言う二点が主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
上述したように、現在実験計画中の、卵巣がん細胞担癌マウスモデルを使用した薬剤投与実験におけるヌードマウス、薬剤、および継続実験中のマウス実験に於ける飼育料および技術料として使用する予定である。
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