研究実績の概要 |
われわれは、Ⅰ期卵巣明細胞腺癌のTelomerase reverse transcriptase (TERT) プロモーター変異を検索したところ、転写開始部位から-129から-154bp領域に、変異を有する症例が予後不良であることを見いだした。この領域は、テロメラーゼの発現を抑制的に制御する領域と推定されており、In Silico解析では、ビタミンAおよびビタミンD受容体の結合配列(RAR/RXR、VDR/RXR)がタンデムに繋がった配列をしている。 卵巣明細胞腺癌株4種類(ES-2、OVISE、OVTOKO、TOV-21G)について、ビタミンAおよびビタミンDの添加による細胞増殖をみたところ、OVISE、OVTOKO、TOV-21G の細胞株においては細胞増殖抑制効果がみられた。これは、ビタミンAおよびビタミンD受容体が結合してテロメラーゼの転写が抑制され、細胞増殖抑制効果がみられたと考えられる。一方、ES-2の細胞株においては細胞増殖抑制効果がみられなかった。ES-2の細胞株はTERTプロモーターの転写開始領域から-129から-154bp領域に変異のある細胞株であるため、ビタミンA,Dの抑制作用が解除されて、テロメラーゼの転写が亢進すると考えられた。次に、TERTプロモーター変異のないTOV-21G細胞株を用いて、クロマチン免疫沈降をおこなったところ、RARα抗体がTERTプロモータ-領域に結合することが確認された。つまり、-129から-154bp領域にはビタミンA受容体の結合部位があることが示された。 以上の結果より、TERTプロモーター変異のない卵巣明細胞癌に、ビタミンAは他の治療薬の新たな補助療法となる可能性があることが示唆された。
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