研究実績の概要 |
女性は閉経後に肥満をきたしやすいことが知られている。本研究では、動物モデルを用いて閉経後の体重増加のメカニズムを検討した。先行研究で、卵巣を摘出した雌マウスやエストロゲン受容体αノックアウトマウスにおいて体重増加を示すことが知られていることから、閉経時にエストロゲンシグナルが消退することが肥満発症の原因となっている可能性が考えられる。我々は複雑なエストロゲンシグナルの中でも、近年注目されているrapid, non-genomicシグナルを特異的にブロックしたマウス(KRRKIマウス)を樹立し、閉経後の肥満形成における本シグナル経路の重要性について検討した。
KRRKIマウスは野生型マウスに比べ体重増加を示し、それはエストロゲン受容体αノックアウトマウスと同程度であった。本マウスは自発的活動量を基礎代謝量が低下していた。本マウスにおいては白色脂肪組織における褐色脂肪化(ベージュ化)が抑制されるとともに、脂肪組織への交感神経興奮シグナルの減弱がみられた。
以上の結果から、2017年度において、我々は中枢神経系におけるrapid, non-genomicエストロゲン受容体シグナルの役割を検討した。そして、KRRKIマウスの脳視床下部において、プロテインカイネースであるAMPKとAktのリン酸化が増加しているとともに、脱リン酸化酵素であるPP2Aの活性が低下していることを突き止めた。PP2A活性化薬を脳室内投与するとKRRKIマウスの肥満は抑制され、野生型雌マウスにおいてPP2A抑制薬を脳室内投与すると体重増加をきたした。以上の結果から、中枢神経系におけるエストロゲン受容体rapid, non-genomicシグナルが、AMPKやAktの脱リン酸化を介して活動量や熱産生を制御することでエネルギー代謝の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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